分類空間の構成

Steenrod [Ste51] は, \(G\) が直交群の閉部分群のとき, CW複体 \(X\) 上の主\(G\)の分類定理を証明した。つまり位相空間 \(BG\) と主\(G\)束 \[ EG \longrightarrow BG \] で, この主\(G\)束の pull-back を取ることによる対応 \[ [X,BG] \longrightarrow P_G(X) \] が全単射であるものを構成した。ここで, \(P_G(X)\) は \(X\) 上の主\(G\)束の同型類の集合である。この分類定理から, \(BG\) のことを \(G\) の分類空間 (classifying space) という。まず, この定義だけからわかる基本的な性質として以下のものがある。

  • 主\(G\)束 \[ E \longrightarrow B \] で, \(E\) が weakly contractible なものがあれば, 弱ホモトピー同値 \[ B \relation{\simeq }{w} BG \] がある。

Steerod の本 [Ste51] における \(BG\) の構成は, 可微分多様体の列の極限 (colimit) として構成しているという点で興味深い。しかしながら, \(G\) に関する関手になっていないし, 適用できる群の範囲が限られている。Steenrod 以降, 分類空間の構成は様々な人により改良, そして拡張されてきた。分類空間の構成として重要なのは以下のものである。

  • Milnor [Mil56] の join による構成
  • Dold-Lashof [DL59] の構成
  • Milgram [Mil67] の構成 (geometric bar construction) とその改良版 [Ste68]
  • Stasheff [Sta63] による \(A_{\infty }\)-space の分類空間の構成

最初の三つの間の関係については, Gajer の Deligne cohomology に関する論文 [Gaj97] の Appendix がよい解説である。 Stasheff による survey [Sta71] もある。これらの構成は以下の特徴を持つ。

  • Dold-Lashof と Milgram の構成は, 位相群だけでなく topological monoid (結合的Hopf空間) にも適用できる。
  • この三つの構成は全て functorial である。つまり位相群 (topological monoid) の準同形 \[ f : G \longrightarrow H \] に対し連続写像 \[ Bf : BG \longrightarrow BH \] が誘導され
    \begin{eqnarray*} B(1_G) & = & 1_{BG} \\ B(g\circ f) & = & Bg\circ Bf \end{eqnarray*}
    が成り立つ。

更に Milgram の構成は次の重要な性質を持つ。

  • 次の自然な同相がある: \[ B(G\times H) \cong BG\times BH \]

この性質から得られるのは, 次の重要な事実である。

  • \(G\) が位相アーベル群ならば, \(BG\) も位相アーベル群の構造を持つ。 よって分類空間の構成を繰り返すことができる。
  • 任意のアーベル群 \(G\) に discrte topology を入れて位相アーベル群とみなしたものに対し, \(B^nG\) は \((G,n)\) 型の Eilenberg-Mac Lane 空間 \(K(G,n)\) になる。つまり \[ K(G,n) = B^nG \] を Eilenberg-Mac Lane空間の定義としてよい。

Eilenberg-Mac Lane 空間の構成には様々なものがあり, Moore空間から出発し, 胞体を張り付けて高次ホモトピー群を消す, というのが古典的なものである。 それと比較して, この Milgram の構成は単に functorial という以外にも, 様々な長所を持っている。それに注目したのが Ravenel と Wilson [RW80] である。彼等は, Milgram の構成を用い, Eilenberg-Mac Lane 空間や他の無限ループ空間のホモロジーを決定した。

Milgram の構成は, 今では幾何学的 bar construction と呼ばれている。これは \(G\) から作られるある simplicial space幾何学的実現になっている。

Dold と Lashof も, Milgram も, \(BG\) だけではなく principal quasifibration \begin{equation} EG \longrightarrow BG \label{MilgramBundle} \end{equation} で total space \(EG\) が可縮なものを構成した。その起源は, Milnor, そして Steenrod の構成した同様の主\(G\)束である。

  • topological monoid \(G\) に対し principal quasifibration \[ EG \longrightarrow BG \] の構成
  • この quasifibration の構成は functorial であること。

Rothenberg と Steenrod は, この quasifibration, より正確には \(BG\) の filtration に同伴した spectral sequence を考察しているが, その論文は, 現在も preprint のままである。日本語訳なら [三村護86] に含まれている。 Rothenberg-Steenrod のスペクトル系列は, 現在では幾何学的 bar construction に対する simplicial space のホモロジースペクトル系列と考えるのが最も分りやすい。

Milgram による \(EG\) の構成は, より一般に two-sided bar construction を使えば \(BG\) の構成と統一して扱える。

  • 位相群 (より一般に topological monoid) \(G\) と right \(G\)-space \(X\) と left \(G\)-space \(Y\) に対し two-sided bar construction \(B(X,G,Y)\) の定義
  • \(B(X,G,G) \simeq X \simeq B(G,G,X)\) である。よって \(B(\ast ,G,G)\) は contractible である。
  • \(G\) の単位元が nondegenerate なとき, quasifibration \[ Y \longrightarrow B(X,G,Y) \longrightarrow B(X,G,\ast ) \] がある。また \(Y=G\) のときは \[ G \longrightarrow B(X,G,G) \longrightarrow B(X,G,\ast ) \] は principal quasifibration である。
  • \(B(*,G,*)\) は Milgram の \(BG\) の構成に一致する。
  • \(G\) が位相群のとき, \(B(*,G,*) = B(*,G,G)/G\) である。
  • two-sided bar construction は, \(A_{\infty }\)-space に対しても定義できる。[Ang09]

Topological monoid の two-sided bar construction については, 日本語では, [西田吾85] がある。 この本では, Steenrod の主\(G\)束の分類定理の一般化も証明してある。これは Dold-Lashof の分類定理を two-sided bar construction で行なったものである。Peter May の memoir [May75] はより一般的な状況を扱っているが, May のものより西田の本の方が読み易いだろう。

群 \(G\) の bar construction の\(n\)番目の集合は, \(n\)個の生成元を持つ自由群から \(G\) への準同型の集合 \(\Hom (F_n,G)\) とみなすことができる。このことから, lower central series を用いて bar construction の simplicial subspace を構成しているのは, Adem と Cohen と Torres-Giese の [ACT12] である。 彼等の構成は, bar construction の simplicial space としての filtration を与え, よって \(BG\) の filtration を与える。まだ他にも bar construction の有用な simplicial subspace がありそうである。

群のコホモロジーを手で計算するときには, できるだけ小さい resolution を作るのが基本であるが, 分類空間の構成についてもできるだけ小さいものを作る algorithm があるとよい。 自由群を始めとした無限離散群の分類空間は有限次元になるものが多いので, そのようなものを考えるときには, bar construction は大きすぎるのである。 そのような構成を考えたものとして, Bridson と Reeves の [BR] がある。

群や monoid は, object が一つの small category とみなすことができる。 幾何学的 bar construction は, 実は, 任意の small category, より一般に topological small category に対して行なうことができる。手順としては, small category から nerve と呼ばれる simplicial set (simplicial space) を作り, その幾何学的実現を取る。

群とその分類空間, または nerve の関係から, 「群の代わり」にある種の simplicial set を用いることもできる。そのアイデアに基づいて, Getzler は [Get09] で Lie 環とLie群の関係\(L_{\infty }\)-algebra への拡張を考えている。それには Deligne groupoid などの興味深い対象が関係している。

Small (topological) category の分類空間は, homotopy (co)limit などの重要な構成と深く関連している。 また幾何学的 bar construction も, ある topological category の分類空間とみなすことができる。 これについては, 西田の [西田吾85] を参照のこと。

より category theory 的には, topos を用いた構成もある。

代数群の分類空間に対しては, 代数多様体による近似 [Tot99] もある。

References

[ACT12]

Alejandro Adem, Frederick R. Cohen, and Enrique Torres Giese. “Commuting elements, simplicial spaces and filtrations of classifying spaces”. In: Math. Proc. Cambridge Philos. Soc. 152.1 (2012), pp. 91–114. arXiv: 0901.0137. url: http://dx.doi.org/10.1017/S0305004111000570.

[Ang09]

Vigleik Angeltveit. “The cyclic bar construction on \(A_{\infty }\) \(H\)-spaces”. In: Adv. Math. 222.5 (2009), pp. 1589–1610. arXiv: math/0612165. url: http://dx.doi.org/10.1016/j.aim.2009.06.007.

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[Gaj97]

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[Get09]

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[May75]

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[Mil67]

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[Sta63]

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[Ste51]

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[Ste68]

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[Tot99]

Burt Totaro. “The Chow ring of a classifying space”. In: Algebraic \(K\)-theory (Seattle, WA, 1997). Vol. 67. Proc. Sympos. Pure Math. Providence, RI: Amer. Math. Soc., 1999, pp. 249–281.

[三村護86]

三村護. ホップ空間. Vol. 26. 紀伊國屋数学叢書. 東京: 紀伊國屋書店, 1986.

[西田吾85]

西田吾郎. ホモトピー論. Vol. 16. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1985.