多様体の例

Poincaré が Analysis Situs で homology を導入したのは, 多様体を調べるためだった。 その homology を中心的な道具として発展してきた代数的トポロジーでは, 多様体よりずっと広い class の空間がの研究対象となったが, 代数的トポロジーでも, 具体的な多様体の例をなるべくたくさん知っておいた方がよい。

まず, 基本的なのは以下のものだろう。

Stiefel 多様体や Grassmann 多様体に関する基本的なことについては, [小中菅67] の第1章§2や第2章§2を見るとよい。

Torus と言ったとき, トポロジーでは \(S^1\) のいくつかの直積のことを意味するが, 代数幾何学複素多様体論では, \(\bbC ^{\times } = \bbC \setminus \{0\}\) の直積のことを意味することが多い。 これらは可換なLie群として, Lie群論 を始めとして, 様々な分野で基本的な役割を果す。例えば, toric variety の代数幾何toric topology という分野もある。

\(n\)次元torus \(T^n = (S^1)^{n}\) は, その定義から \((\R ^2)^n=\R ^{2n}\) の部分多様体であるが, \(T^2\) の絵は \(\R ^3\) の中に描かれることが多い。 より一般に \(T^n\) は \(\R ^{n+1}\) に埋め込むことができる。

  • \(n\)次元 torus \(T^n = (S^1)^{n}\) は \(\R ^{n+1}\) に埋め込める。

Buchstaber と Panov は [BP00] で, この事実の帰納的な証明を与えている。\(T^2\) の \(\R ^3\) への埋め込みは \[ T^2 = \set{ ((2+\cos \theta )\cos \varphi , (2+\cos \theta )\sin \varphi , \sin \theta )}{ 0 \le \theta \le 2\pi , 0 \le \varphi \le 2\pi } \] というよく知られた具体的な表示があるので, これを元に, 一般の \(T^n\) の埋め込みの具体的な表示を考えてみるのも面白いだろう。

Riemann面は, \(2\)次元の可微分多様体と思ってもいいし, \(1\)次元の複素多様体と思ってもいいし, 複素数体上の代数曲線と思ってもいい。 様々な分野に関係する非常に重要な対象である。

より一般に, 実数体や複素数体上の smooth algebraic variety は可微分多様体になるし, 逆に重要な多様体は代数多様体として定義できることが多い。

コボルディズム環の生成元として, 具体的な多様体を見付けることも行なわれている。

  • Dold多様体 [Dol56]
  • Milnor多様体 [Mil65]
  • Dold 多様体も Milnor 多様体も unoriented cobordism ring の生成元であること

トポロジーの中でも多様体の性質を詳しく調べる分野 (最近では geometric topology と呼ばれる?) では, “exotic” な多様体の例が重要である。 常識的な感覚とは異なる性質を持つときに, exotic という表現を使うようである。 有名なのは, Milnor の exotic \(7\)-shere [Mil56] や exotic \(\R ^4\) である。これらは微分構造が exotic な例である。一方 Guilbault の [Gui] では, 可縮な open manifold で Euclid空間と同相ではないものに対し, exotic contractible open manifold という表現が使われている。

  • exotic sphere
  • exotic \(\R ^4\)
  • Whitehead の contractible open \(3\)-manifold

非可換な多様体の例については, 以下のページにまとめた。

References

[BP00]

V. M. Bukhshtaber and T. E. Panov. “Actions of tori, combinatorial topology and homological algebra”. In: Uspekhi Mat. Nauk 55.5(335) (2000), pp. 3–106. arXiv: math/0010073. url: http://dx.doi.org/10.1070/rm2000v055n05ABEH000320.

[Dol56]

Albrecht Dold. “Erzeugende der Thomschen Algebra \(\mathfrak{N}\)”. In: Math. Z. 65 (1956), pp. 25–35.

[Gui]

Craig R. Guilbault. Ends, shapes, and boundaries in manifold topology and geometric group theory. arXiv: 1210.6741.

[Mil56]

John Milnor. “On manifolds homeomorphic to the \(7\)-sphere”. In: Ann. of Math. (2) 64 (1956), pp. 399–405. url: https://doi.org/10.2307/1969983.

[Mil65]

J. Milnor. “On the Stiefel-Whitney numbers of complex manifolds and of spin manifolds”. In: Topology 3 (1965), pp. 223–230. url: https://doi.org/10.1016/0040-9383(65)90055-8.

[小中菅67]

小松醇郎, 中岡稔, and 菅原正博. 位相幾何学 I. 東京: 岩波書店, 1967.