単体的複体に関する基本的なことがら

単体的複体の基本的な性質についてまとめたものとしては, 例えば Kozlov の本 [Koz08] がある。 Part I には, 単体的複体をはじめとして, 多面体を貼り合わせた polyhedral complex, そして CW複体までの基本的な性質がまとめられている。 Simplicial set の解説である Friedmanの [Fri12] にも, simplicial set の motivation として, 単体的複体のことが簡単に解説されている。古典的な本では, Eilenberg と Steenrod の [ES52] の Chapter II も良いと思う。もちろん, 他にも色んな本があるが。

さて, 単体的複体を定義するためには, まずは単体 (simplex) が必要である。

複数の単体をそれらの面で張り合わせたのが単体的複体 (simplicial complex) であるが, いくつかの variation がある。理解しやすいのは Euclid 空間の部分空間として実現される Euclid 単体的複体であろう。

幾何学的実現は, 昔の日本語の本 ([小中菅67] など) では多面体と呼ばれていることもある。

幾何学的実現の逆の操作が, 与えられた空間の単体分割である。もちろん, 単体分割不可能な空間もあるので, どのような空間が単体分割可能か知っておく必要がある。

単体的複体は, Poincaré により ホモロジーを定義するために導入された。

単体的複体の間の写像は, 単体を単体に写す写像, つまり単体的写像を使うのが普通である。 ホモトピーに対応するものとしては, contiguity という概念がある。 González の [Gon18] で, topological complexity の simplicial 版を定義するときに使われている。González は Spanier の本 [Spa81] の §3.5 を参照している。

  • simplicial map
  • contiguity
  • simplicial approximation theorem

Fernández-Ternero と García-Calcines と Macías-Virgós と Vilches [Fer+21] は, この contiguity を用いて abstract simplicial complex に対し fibration を定義している。

  • abstract simplicial complex の間の fibration

順序付き単体的複体を更に抽象化したのが, semisimplicial set (\(\Delta \)-set)simplicial set である。[DH01] の Dwyer の解説 (§3) は単体的複体から始めて自然に simplicial set を導入してあり, 非常に読み易い。おすすめである。

古いトポロジーの本では出てこないが, 現在単体的複体が最も良く使われているだろう 組み合せ論では, 単体的複体を構成する単体全体の成す poset, つまり face poset が重要である。

重心細分以外の細分としては edgewise subdivision と呼ばれるものもある。

その他, 単体, もしくは単体的複体に関し, トポロジー (PLトポロジー) で使う概念は以下のものだろう。

  • 抽象単体的複体の間の写像 (単体的写像) の定義
  • Euclid単体的複体の間の PL 写像 (piecewise linear map) の定義
  • 単体的複体 \(K\) と\(A \subset |K|\)に対し, 星状体 (star) \(\mathrm {St}(A,K)\) および開星状体 (open star) の定義
  • PL 多様体や pseudomanifold の定義

開星状体を用いると subcomplex の regular neighborhood が定義できる。

  • regular neighborhood
  • full subcomplex
  • \(L\) が \(K\) の full subcomplex ならば \(L\) の \(K\) の中での regular neighborhood は \(L\) に deformation retract する。

この結果は, 例えば Eilenberg と Steenrod の [ES52] に full subcomplex の定義も含めて書いてある。

星状体に関連したものとして, Barmak [Bar13] が定義した star cluster がある。

  • star cluster

Barmak は independence complex を調べることに使っているが, 他にも Iriye [Iri12] や Goyal ら [GSS21] も independence complex を調べるために使っている。Donovan と Scoville [DS] は acyclic matching complex など discrete Morse theory に関連した simplicial complex を調べるのに使っている。

古典的な PL トポロジーでは, 他の単体の面になっていない面を持つ単体を潰すという操作 (elementary collapse) は重要であり, その操作を同値関係に拡張して, 単体的複体の simple homotopy type が定義された。現在では combinatorial algebraic topology あるいは topological combinatorics と呼ばれる分野で重要な概念として使われている。

知られている単体的複体から新たな単体的複体を構成する方法は, 組み合せ論Stanley-Reinser 環の視点から, 最近色々発見されているようである。

知っておいた方がよい事実としては次のことが挙げられる。

  • \(n\)次元有限単体的複体は \((2n-1)\) 次元 Euclid 空間に埋め込めること
  • 単体近似定理 (simplicial approximation theorem)

\(n\)次元有限単体的複体が\((2n-1)\)次元 Euclid 空間に埋め込めることは, 例えば, [FR84] に証明がある。これは 多様体の埋め込みに関する有名な定理の類似である。 多様体ではどれだけ低い次元に埋め込めるかというのは基本的な問題であるが, 単体的複体の場合は discrete なデータなので, そのアルゴリズムを考えることもできる。Matousek と Tancer と Wagner の [MTW11] など。

References

[Bar13]

Jonathan Ariel Barmak. “Star clusters in independence complexes of graphs”. In: Adv. Math. 241 (2013), pp. 33–57. arXiv: 1007.0418. url: https://doi.org/10.1016/j.aim.2013.03.016.

[DH01]

William G. Dwyer and Hans-Werner Henn. Homotopy theoretic methods in group cohomology. Advanced Courses in Mathematics—CRM Barcelona. Basel: Birkhäuser Verlag, 2001, p. x 98. isbn: 3-7643-6605-2.

[DS]

Connor Donovan and Nicholas A. Scoville. Star clusters in the Matching, Morse, and Generalized Morse complex. arXiv: 2207.13780.

[ES52]

Samuel Eilenberg and Norman Steenrod. Foundations of algebraic topology. Princeton, New Jersey: Princeton University Press, 1952, p. xv 328.

[Fer+21]

Desamparados Fernández-Ternero, José Manuel García-Calcines, Enrique Macías-Virgós, and José Antonio Vilches. “Simplicial fibrations”. In: Rev. R. Acad. Cienc. Exactas Fís. Nat. Ser. A Mat. RACSAM 115.2 (2021), Paper No. 54, 25. arXiv: 1902.10114. url: https://doi.org/10.1007/s13398-020-00966-5.

[FR84]

D. B. Fuks and V. A. Rokhlin. Beginner’s course in topology. Universitext. Berlin: Springer-Verlag, 1984, p. xi 519. isbn: 3-540-13577-4.

[Fri12]

Greg Friedman. “Survey article: an elementary illustrated introduction to simplicial sets”. In: Rocky Mountain J. Math. 42.2 (2012), pp. 353–423. arXiv: 0809.4221. url: http://dx.doi.org/10.1216/RMJ-2012-42-2-353.

[Gon18]

Jesús González. “Simplicial complexity: piecewise linear motion planning in robotics”. In: New York J. Math. 24 (2018), pp. 279–292. arXiv: 1701.07612. url: https://nyjm.albany.edu/j/2018/24-16.html.

[GSS21]

Shuchita Goyal, Samir Shukla, and Anurag Singh. “Homotopy type of independence complexes of certain families of graphs”. In: Contrib. Discrete Math. 16.3 (2021), pp. 74–92. arXiv: 1905.06926.

[Iri12]

Kouyemon Iriye. “On the homotopy types of the independence complexes of grid graphs with cylindrical identification”. In: Kyoto J. Math. 52.3 (2012), pp. 479–501. url: https://doi.org/10.1215/21562261-1625172.

[Koz08]

Dmitry Kozlov. Combinatorial algebraic topology. Vol. 21. Algorithms and Computation in Mathematics. Berlin: Springer, 2008, pp. xx+389. isbn: 978-3-540-71961-8. url: https://doi.org/10.1007/978-3-540-71962-5.

[MTW11]

Jiří Matoušek, Martin Tancer, and Uli Wagner. “Hardness of embedding simplicial complexes in \(\R ^d\)”. In: J. Eur. Math. Soc. (JEMS) 13.2 (2011), pp. 259–295. arXiv: 0807.0336. url: http://dx.doi.org/10.4171/JEMS/252.

[Spa81]

Edwin H. Spanier. Algebraic topology. Corrected reprint. New York: Springer-Verlag, 1981, pp. xvi+528. isbn: 0-387-90646-0.

[小中菅67]

小松醇郎, 中岡稔, and 菅原正博. 位相幾何学 I. 東京: 岩波書店, 1967.