正\(n\)単体は, 全ての次元で存在する 3種類の 正多面体の系列の一つである。 その \(1\)-skeleton が完全 グラフであるなど, 組み合せ論的にも,
基本的な 多面体である。
もちろん, 組み合せ論的には正単体である必要はない。 そしてトポロジーでも同様である。 \(n\)単体は, \(\R ^N\) の中の 一般の位置 (general
position) にある, またはアフィン独立 (affine independent) である点 \(\bm {a}_0, \ldots , \bm {a}_n\) の convex hull として定義するのが普通だろう。
トポロジーでは, 単体的複体や simplicial set の定義に必要になる。
任意の2つの\(n\)単体は, 互いに アフィン同値であるから, トポロジーで用いる際には, どれを選んでもよいのであるが, 実際に\(n\)単体を扱う際には,
標準的な\(n\)単体を決めておくとよい。 代表として正\(n\)単体を選びたいところであるが, \(\R ^n\) の中に正\(n\)単体を入れるのはちょっと面倒である。 \(\R ^{n+1}\) なら簡単であるが。
そこで \(\R ^n\) に埋め込まれた \(n\)単体が必要なときには, 次の2番目のものを使うことが多い。
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\(\R ^{n+1}\) の中の正\(n\)単体は
\[ \set {(s_0,\ldots ,s_n) \in \R ^{n+1}}{s_0 + \cdots + s_n = 1, s_0,\ldots ,s_n\ge 0} \] で与えられる。
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\(\R ^n\) の部分集合
\[ \Delta ^n = \set {(t_1,\ldots ,t_n)\in \R ^n}{0\le t_1\le \cdots \le t_n\le 1} \] が\(n\)単体であること。
最初に述べたように, \(1\)-skeleton が完全グラフになるというのは単体の1つの特徴である。より強い以下の性質も持つ。
- 頂点の集合の任意の部分集合に対しそれらを頂点とする面が存在する。 よって, \(n\)単体の face lattice は,
\(n+1\)個の元を持つ集合の部分集合の全体の成す poset と同一視できる。
単体的手法の視点からは, 全順序集合 \([n]=\{0<1<\cdots <n\}\) を \(n\) 単体とみなすのが自然である。 例えば, Dorn と Douglas の [DD]
で使われている。 彼等は, それを元に framed simplex の概念を導入し, framed simplicial complex
を定義している。
単体は, 多面体としては最も単純なものであるが, 単体からは permutohedron や associahedron を,
面を切ることによる作ることができる。 Hohlweg の [Hoh12] によると, この方法を発見したのは Shnider と Sternberg
[SS93] であり, それを完成したのは Loday [Lod04] らしい。
3次元の単体は四面体であるが, 接していない2辺を選び, それ以外の4辺の中点を結んでできる四角形の面積を辺の長さで表すの公式を Yetter
が [Yet99] で述べている。 色々文献を探したり様々な分野の数学者に聞いたけど知られていないようなので, 多分新しい公式なのだろう,
と言っている。その公式は, Talata [Tal03] により高次元に一般化されている。 Crane と Yetter の [CY20] では,
このblogに書かれている四面体の余弦定理が参照されているが, Crane と Yetter は四面体に関する様々な公式が得られている。 このように,
多面体として, まだまだ四面体について知られていなことがあるというのは, 驚きである。
凸多面体とは全く異なる視点による blog post が Leinster により \(n\)-Category Café に投稿された。
単体の内部をベクトル空間とみなす, というものである。\(n\)単体の内部は \(n\) 次元の open ball と同相であり, よって \(\R ^n\) と同相なので,
この同相を使ってベクトル空間の構造を入れることができることは誰でも気がつく。Leinster の書いているのは, より具体的な構造である。つまり,
exponential map により \(\R \) と \((0,\infty )\) を同一視し, それにより \((0,\infty )^n\) にベクトル空間の構造を入れる。その部分ベクトル空間として \(\R ^n\) で \((1,\ldots ,1)\)
で張られる1次元ベクトル空間に対応するものがあるが, それによる商空間が自然に\(n\)単体の内部と同一視できるというのである。
References
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[CY20]
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Louis Crane and David N. Yetter. “Tetrahedal geometry from areas”.
In: Amer.
Math. Monthly 127.8 (2020), pp. 726–733. arXiv: 1906.12224. url:
https://doi.org/10.1080/00029890.2020.1793636.
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[DD]
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Christoph Dorn and Christopher L. Douglas. Framed combinatorial
topology. arXiv: 2112.14700.
-
[Hoh12]
-
Christophe Hohlweg. “Permutahedra and associahedra: generalized
associahedra from the geometry of finite reflection groups”. In:
Associahedra, Tamari lattices and related structures. Vol. 299. Prog.
Math. Phys. Birkhäuser/Springer, Basel, 2012, pp. 129–159. arXiv:
1112.3255. url: https://doi.org/10.1007/978-3-0348-0405-9_8.
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[Lod04]
-
Jean-Louis Loday. “Realization of the Stasheff polytope”. In: Arch.
Math. (Basel) 83.3 (2004), pp. 267–278. arXiv: math/0212126. url:
http://dx.doi.org/10.1007/s00013-004-1026-y.
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[SS93]
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Steven Shnider and Shlomo Sternberg. Quantum groups. Graduate
Texts in Mathematical Physics, II. From coalgebras to Drinfel\('\)d
algebras, A guided tour. Cambridge, MA: International Press, 1993,
pp. xxii+496. isbn: 1-57146-000-4.
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[Tal03]
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István Talata. “A volume formula for medial sections of simplices”.
In: vol. 30. 2. U.S.-Hungarian Workshops on Discrete Geometry and
Convexity (Budapest, 1999/Auburn, AL, 2000). 2003, pp. 343–353.
url: https://doi.org/10.1007/s00454-003-0015-6.
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[Yet99]
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David N. Yetter. “The area of the medial parallelogram of a
tetrahedron”. In: Amer. Math. Monthly 106.10 (1999), pp. 956–958.
arXiv: math/9809007. url: https://doi.org/10.2307/2589752.
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