古典的な(コ)ホモロジーに関する基本的な定義と性質

まずは, ホモロジーについての元々の Poincaré のアイデア [斉藤利96] を理解すべきであると言いたいところであるが, これはある程度ホモロジーの理解が進んでからの方がよいだろう。

  • Poincaréの元々の homologous の定義
  • Poincaréの元々の Betti 数の定義

まず最初は, やはり, 単体的複体で練習しておくのがよい。

  • 単体的複体のホモロジー
  • \(X\) が \(n\)次元単体複体ならば, \(i > n\) に対し \(H_i(X) = 0\)

各次元の単体の個数の alternating sum として, 単体的複体の Euler 標数が定義されるが, これが Betti 数の alternating sum と等しいことを見ると, ホモロジーが本質的な情報を取り出すものであることに納得できるかもしれない。

  • Betti 数の定義
  • 有限単体複体の単体の個数で定義した Euler 標数と Betti 数の alternating sum で定義した Euler 標数が一致すること。

単体の扱いに慣れたら, 特異ホモロジーを理解するのはそれほど難しくはないはずである。

  • Singular chain complex による特異ホモロジー (singular homology) の定義
  • 連続写像 \(f : X \to Y\) からchain map \[ f_{\#} : S_{\ast }(X) \longrightarrow S_{\ast }(Y) \] が誘導され, よって各\(n\)に対し準同形 \[ f_{*} : H_{n}(X) \longrightarrow H_{n}(Y) \] が誘導される。
  • 恒等写像から誘導される準同形は恒等写像である。
  • 連続写像 \[ f,g : X \longrightarrow Y \] について, もし \(f\) と \(g\) がホモトピック \(f \simeq g\) ならば, 誘導された chain map は chain homotopic であり, よって \(H_{n}(X)\) の上で \(f_{*}=g_{*}\) となる。
  • 連続写像 \[ \begin {split} f & : X \rarrow {} Y \\ g & : Y \rarrow {} Z \end {split} \] に対し, \(H_n(X)\) 上で \[ (g\circ f)_* = g_*\circ f_* \] となる。
  • 位相空間 \(X\) と \(Y\) がホモトピー同値 \(X \simeq Y\) ならば, 全ての \(n\) に対し \(H_{n}(X) \cong H_{n}(Y)\) である。

以上は, 特異ホモロジーが位相空間と連続写像の成すから次数付きアーベル群と準同形の成す圏へのホモトピー不変関手である, ということで, ホモロジーの最も基本的な性質である。

次はホモロジーの計算の第一歩である。

  • \(X\) が一点から成る空間ならば \[ H_{n}(X) \cong \begin {cases} \Z , & n=0 \\ 0, & n\neq 0 \end {cases} \] である。 よって \(X\) が 可縮 (contractible) ならば \[ H_{n}(X) \cong \begin {cases} \Z , & n=0 \\ 0, & n\neq 0 \end {cases} \] である。
  • \(X\) が \(k\)個の弧状連結成分を持つなら \[ H_{0}(X) \cong \underbrace {\Z \oplus \cdots \oplus \Z }_{k} \] である。 特に, もし \(X\) が弧状連結なら \[ H_{0}(X) \cong \Z \] である。

    より正確に言えば, 自然な写像 \[ \pi _0(X) \longrightarrow H_0(X) \] は, \(H_0(X)\) と \(\pi _0(X)\) で生成された自由Abel群との間の同型を誘導する。ここで \(\pi _0(X)\) は \(X\) の 弧状連結成分の成す集合である。

  • \(n\)次元球面 \(S^n\) に対し \[ H_i(S^n) \cong \begin {cases} \Z & i = 0,n \\ 0 & i\neq 0,n \end {cases} \] である。

もっとも, 一点のホモロジーは定義からすぐ決定できるが, 球面のホモロジーの結果を証明するためには, いくつか準備が必要である。 普通は, 対のホモロジーと完全列を使う。

  • 位相空間対 \((X,A)\) のホモロジー \(H_{*}(X,A)\) の定義
  • \(H_{n}(X,\emptyset ) \cong H_{n}(X)\)
  • 位相空間対のホモロジーは, 各 \(n\) に対し, 関手 \[ H_{n} : \category {Top}_{2} \longrightarrow \category {Abel} \] を定義する。ここで, \(\category {Top}_{2}\) は, 位相空間対と対の写像の成す圏である。
  • 位相空間対 \((X,A)\) に対し次は chain complex の完全列である \[ 0 \longrightarrow S_*(A) \longrightarrow S_*(X) \longrightarrow S_*(X,A) \longrightarrow 0, \] よって長い完全列 \[ \begin {split} \cdots \longrightarrow H_{n}(A) \rarrow {i_{*}} H_{n}(X) & \rarrow {p_{*}} H_{n}(X,A) \rarrow {\partial _{n}} H_{n-1}(A) \longrightarrow \cdots \\ \cdots & \longrightarrow H_{0}(A) \longrightarrow H_{0}(X) \longrightarrow H_{0}(X,A) \longrightarrow 0 \end {split} \] を得る。

    ここで, \[ \partial _{n} : H_{n}(X,A) \longrightarrow H_{n-1}(A) \] chain complex の短完全列に付随する連結準同形 (connecting homomorphism) である。

  • 位相空間対の写像 \(f : (X,A) \to (Y,B)\) に対し, 次の図式は可換である。 \[ \xymatrix { H_{n}(X,A) \ar [d]_{f_{*}} \ar [r]^{\partial } & H_{n-1}(A) \ar [d]^{f_{*}} \\ H_{n}(Y,B) \ar [r]_{\partial } & H_{n-1}(B) } \] つまり, 関手 \(q: \category {Top}_{2}\to \category {Top}\) を \(q(X,A)=A\) で定義すると, 連結準同型は, 自然変換 \[ \partial _{n} : H_{n} \Longrightarrow H_{n-1}\circ q \] である。
  • 位相空間対 \((X,A)\) に対し, \(X\) の開集合 \(U\) が \(\overline {U}\subset A\) をみたすとき, 包含写像から誘導される写像 \[ H_{n}(X\setminus U,A\setminus U)\rarrow {} H_{n}(X,A) \] は同型写像である。

最後の同型を切除同型という。

対のホモロジーを普通のホモロジーに直すためには, いくつか条件が必要である。

  • 被約ホモロジー (reduced homology) \(\widetilde {H}_*(X)\) の定義。
  • 基点 \(x_0\) を持つ空間\( X\) に対し次が成り立つ \[ \begin {split} H_n(X) & \cong \widetilde {H}_n(X)\oplus H_n(\{x_0\}) \\ & \cong \left \{\begin {array}{ll} \widetilde {H}_n(X) & n > 0 \\ \widetilde {H}_0(X)\oplus \Z & n=0 \end {array}\right . \end {split} \]
  • NDR対 \((X,A)\) に対し自然な同型 \[ H_n(X,A) \cong \widetilde {H}_n(X/A) \] がある。 特に非退化な基点 \(x_0\) を持つ基点付き空間 \(X\) に対し, 次の同型がある。 \[ H_n(X,\{x_0\}) \cong \widetilde {H}_n(X) \]
  • 基点付きの空間対 \((X,A)\) に対し次の完全列がある。 \[ \begin {split} \cdots \longrightarrow \widetilde {H}_{n}(A) \rarrow {i_{*}} \widetilde {H}_{n}(X) & \rarrow {p_{*}} H_{n}(X,A) \rarrow {\partial _{n}} \widetilde {H}_{n-1}(A) \longrightarrow \cdots \\ \cdots & \longrightarrow \widetilde {H}_{0}(A) \longrightarrow \widetilde {H}_{0}(X) \longrightarrow H_{0}(X,A) \longrightarrow 0 \end {split} \] よって基点付き NDR対 \((X, A)\) に対し, 次の完全列がある。 \[ \begin {split} \cdots \longrightarrow \widetilde {H}_{n}(A) \rarrow {i_{*}} \widetilde {H}_{n}(X) & \rarrow {p_{*}} \widetilde {H}_{n}(X/A) \rarrow {\partial _{n}} \widetilde {H}_{n-1}(A) \longrightarrow \cdots \\ \cdots & \longrightarrow \widetilde {H}_{0}(A) \longrightarrow \widetilde {H}_{0}(X) \longrightarrow \widetilde {H}_{0}(X/A) \longrightarrow 0 \end {split} \]
  • 懸垂同型 \(\widetilde {H}_{n+1}(\Sigma X) \cong \widetilde {H}_{n}(X)\)

次はホモロジー群の加法性である。

  • 任意の位相空間 \(X\) と \(Y\) 非負整数 \(n\) に対し次の自然な同型がある。 \[ H_n(X\amalg Y) \cong H_n(X)\oplus H_n(Y) \] \(X\) と \(Y\) が基点付きなら \[ \widetilde {H}_n(X\vee Y) \cong \widetilde {H}_n(X)\oplus \widetilde {H}_n(Y) \]
  • Mayer-Vietorisの完全列
  • ホモロジーは sequential colimit と可換
  • より一般に, homotopy colimit に対しては, homology spectral sequence がある。

Mayer-Vietoris の完全列には relative 版があるが, キチンと書かれた文献は 多くない。May の Concise Course [May99] の Chapter 14 section 5 (cohomology は Chapter 19 section 3) で述べられている形は, あまり実用的ではない。Hatcher の [Hat02] の152ページに書かれている形が普通使う形であるが, Hatcher の証明は chain complex を用いたもので, ordinary (co)homology にしか通用しない。幸い, 一般(コ)ホモロジーで使える空間レベルの議論による証明を Steiner [Ste84] が得ている。

ホモロジーと sequential colimit の可換性については, May の Concise Course の Chapter 14 section 6 に書かれている。

ホモロジーに適当な係数を付けて考えると, ある特定の情報だけ取り出したりできる。

  • アーベル群 \(A\) に係数を持つホモロジー \(H_*(X;A)\) の定義
  • アーベル群の短完全列 \[ 0 \longrightarrow M_1 \rarrow {f} M_2 \rarrow {g} M_3 \longrightarrow 0 \] に対し, 次の長い完全列がある。 \[ \begin {split} \cdots \longrightarrow H_{n}(X;M_1) & \rarrow {f_{*}} H_{n}(X;M_2) \rarrow {g_{*}} H_{n}(X;M_3) \rarrow {\partial _{n}} H_{n-1}(X;M_1) \longrightarrow \cdots \\ \cdots & \longrightarrow H_{0}(X;M_1) \rarrow {f_*} H_{0}(X;M_2) \rarrow {g_*} H_{0}(X;M_3) \longrightarrow 0 \end {split} \]

位相空間の圏は直積により symmetric monoidal category の構造を持つが, 可換環 \(k\)上の graded module の圏も tensor product による symmetric monoidal category の構造を持つ。つまりホモロジーを関手 \[ H_{*}(-;k) : \category {Top} \rarrow {} \enriched {k}{\category {dgMod}} \] と考えたとき, symmetric monoidal structure を保つかどうかというのは自然な問題である。これについては, Künneth の定理がある。いつでも同型になるわけではなく, \(k\) が PID のときは \(\mathrm {Tor}_{1}\) がおまけとして付く。

  • Künneth の定理

特異コホモロジーについては, ほとんど平行した議論ができる。

  • 特異コホモロジーの定義。
  • ホモロジーに対して定義された概念やホモロジーの持つ性質に対し, そのコホモロジー版を調べること。

コホモロジーのホモロジーに対する advantage は, 積を持つことである。

  • 環を係数に持つ特異コホモロジーにおけるカップ積 (cup product) の定義。
  • 環を係数に持つ特異コホモロジーにおいて, 連続写像は環準同形を誘導する。
  • 可換環 \(k\) を係数に持つ特異コホモロジーは, カップ積により \(k\) 上の graded commutative algebra になる。

双対的に考えると, ホモロジーに余積を定義できる。

  • \(H_*(X;k)\) が \(k\) 上 flat であるとき, \(H_*(X;k)\) は \(k\) 上の graded cocommutative coalgebra になる。

コホモロジーとホモロジーの関係, そしてコホモロジーとホモトピー集合との関係は以下の通り。

  • 普遍係数定理
  • 自然数 \(n\) とアーベル群 \(G\)に対し \(K(G,n)\) を \((G,n)\) 型の Eilenberg-Mac Lane 空間とする。するとCW複体 \(X\) に対し, 次の 自然な同型 \[ H^n(X;G) \cong [X, K(G,n)] \] がある。また基点付きの場合は \[ \widetilde {H}^n(X;G) \cong [X,K(G,n)]_* \] である。

Künneth の定理や普遍係数定理は, Künneth スペクトル系列や普遍係数スペクトル系列として一般化される。

Grothendieck に依ると, chain complex の level では derived category で考えるのが良いというが, ホモトピー論的にはモデル圏の間の functor として考えるのが良いだろう。

上のコホモロジーとホモトピー集合の関係のホモロジー版が次の Dold-Thom の定理である。

係数付きのホモロジーに対応する Abel 群 \(G\) に係数を持つ無限対称積を考えることもできる。 [McC69] の構成がよいだろう。

次の事実は, Whitehead の定理と呼ばれる。

Whitehead の定理と呼ばれるものには, 2種類ある。もう一つは, CW複体に対しては, 弱ホモトピー同値写像とホモトピー同値が同値になるというもの, である。 両方 J.H.C. Whitehead の [Whi49] で証明されたものなのでややこしい。 前者を「ホモロジー同値に関する Whitehead の定理」, 後者を「ホモトピー同値に関する Whitehead の定理」と呼ぶのがいいと思う。

ホモトピー群との関係では, Hurewicz の定理が基本的である。

(コ)ホモロジーの公理を認めて, とりあえずそこから何が分かるか考えてみるのも一つの方法である。 公理をみたす(コ)ホモロジーの存在は, 後で勉強すればよい。 実際, そのように書いてある本としては, May の concise course [May99] がある。また [Gra75; AGP02] ではホモトピー集合を用いて(コ)ホモロジーが定義してある。

(コ)ホモロジーの公理化は, Eilenberg と Steenrod [ES52] による試みが最初である。 彼等は特異(コ)ホモロジーしか念頭になかったのであるが, その後 \(K\) 理論コボルディズムの発見により, 一般(コ)ホモロジーという概念に統一された。

  • Eilenberg-Steenrod の公理とそれをみたすホモロジーの一意性。系として, 単体的 chain complex で定義されたホモロジーと特異ホモロジーは単体的複体の圏で一致することが分かる。
  • 一般(コ)ホモロジーの公理

Ayala と Francis [AF15] は, factorization homology の公理化のために, Eilenberg-Steenrod の公理を \((\infty ,1)\)-category の言葉で書き直している。

実際に(コ)ホモロジーを計算したり利用したりする際には, CW 複体の胞体と(コ)ホモロジーの元との関連を知っている必要がある。

References

[AF15]

David Ayala and John Francis. “Factorization homology of topological manifolds”. In: J. Topol. 8.4 (2015), pp. 1045–1084. arXiv: 1206.5522. url: http://dx.doi.org/10.1112/jtopol/jtv028.

[AGP02]

Marcelo Aguilar, Samuel Gitler, and Carlos Prieto. Algebraic topology from a homotopical viewpoint. Universitext. Translated from the Spanish by Stephen Bruce Sontz. New York: Springer-Verlag, 2002, pp. xxx+478. isbn: 0-387-95450-3.

[ES52]

Samuel Eilenberg and Norman Steenrod. Foundations of algebraic topology. Princeton, New Jersey: Princeton University Press, 1952, p. xv 328.

[Gra75]

Brayton Gray. Homotopy theory. An introduction to algebraic topology, Pure and Applied Mathematics, Vol. 64. New York: Academic Press [Harcourt Brace Jovanovich Publishers], 1975, pp. xiii+368.

[Hat02]

Allen Hatcher. Algebraic topology. Cambridge: Cambridge University Press, 2002, pp. xii+544. isbn: 0-521-79160-X; 0-521-79540-0.

[May99]

J. P. May. A concise course in algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Chicago, IL: University of Chicago Press, 1999, pp. x+243. isbn: 0-226-51182-0.

[McC69]

M. C. McCord. “Classifying spaces and infinite symmetric products”. In: Trans. Amer. Math. Soc. 146 (1969), pp. 273–298. url: https://doi.org/10.2307/1995173.

[Ste84]

Richard Steiner. “The relative Mayer-Vietoris sequence”. In: Math. Proc. Cambridge Philos. Soc. 95.3 (1984), pp. 423–425. url: https://doi.org/10.1017/S0305004100061740.

[Whi49]

J. H. C. Whitehead. “Combinatorial homotopy. I”. In: Bull. Amer. Math. Soc. 55 (1949), pp. 213–245. url: https://doi.org/10.1090/S0002-9904-1949-09175-9.

[斉藤利96]

斉藤利弥. ポアンカレ トポロジー. 数学史叢書. 東京: 朝倉書店, 1996.