安定ホモトピー論

安定ホモトピー論の「安定」とは, suspension を取っても変わらないという意味である。 Freudenthal の suspension theorem により, suspension により得られるホモトピー群の間の写像 \[ E : \pi _{n+k}(\Sigma ^k X) \longrightarrow \pi _{n+k+1}(\Sigma ^{k+1} X) \] は, 十分大きな \(k\) に対しては同型となる。そこで, 基点付きCW複体の圏の morphism を修正し, \(X\) から \(Y\) への morphism の集合を \[ \{X, Y\} = \colim _k [\Sigma ^k X,\Sigma ^k Y]_* \] として得られる圏を考えようになった。 これが最も初等的な安定ホモトピー圏である。 その後, コボルディズム群一般(コ)ホモロジーを安定ホモトピー圏の morphism の集合として表わすために, object をCW複体から spectrumに拡張し, spectrum の安定ホモトピー圏を考えるようになった。 この段階での文献としては, Adams の [Ada74] がある。

現在ではスペクトラムの概念がより精密化され, ホモトピー圏を取る前の「スペクトラムの圏」で議論できるようになった。 それにより, ホモロジー代数の類似が行なえるようになっている。

スペクトラムのホモトピー論については, どのように勉強したらよいか, MathOverflow で何度か質問されている。 この質問に対する回答にまとめられているので, それを見るとよい。

現在の安定ホモトピー論を勉強する上では, \(v_n\)周期性を理解することが重要である。

また, モデル圏の言葉が普及し, 位相空間や CW複体の圏以外でも “安定ホモトピー圏” が考えられるようになってきている。 例えば, Voevodsky の \(A^1\)-homotopy theory などである。 Meyer-Nest の Kasparov categorynoncommutative stable homotopy theory と見なすことを提案しているのは, Kontsevich [Kon09] である。

CW複体や spectrum の安定ホモトピー圏は, 純粋に代数的に鎖複体の圏から構成される derived category とよく似た性質を持ち, それらを抽象化した概念である triangulated category の重要な例となっている。 当然であるが, 安定ホモトピー論と derived category の双方に関係する研究も色々行なわれるようになっている。 そのような視点を持った人の代表は Neeman だろうか。例えば, [Nee92a; Nee92b] など。 D. Stanley の [Sta] や Kiessling の [Kiea; Kieb] などもその流れでと言えるだろうか。

最近では, より精密な議論をするために triangulated category ではなく, その元になっている構造, つまり enhanced triangulated category で議論することも多い。

ホモトピー論的な枠組みとしては stable model category というものがあるが, derived category を使っている人達の間では, dg category など, より単純な構造が用いられている。

Dwyer と Palmieri が [DP08] で書いているように, 安定ホモトピー論と derived category の研究の関係としては二種類ある。 一つは, derived category を調べる際に安定ホモトピー圏を調べるために開発された手法を使うこと。 もう一つは, 非常に複雑な spectrum の安定ホモトピー圏を調べる方法を模索するためのテストケースとしての derived category である。

他の話題としては, 群の作用を持つ空間の安定ホモトピー論も重要である。

References

[Ada74]

J. F. Adams. Stable homotopy and generalised homology. Chicago, Ill.: University of Chicago Press, 1974, p. x 373.

[DP08]

W. G. Dwyer and J. H. Palmieri. “The Bousfield lattice for truncated polynomial algebras”. In: Homology Homotopy Appl. 10.1 (2008), pp. 413–436. arXiv: 0802.1509.

[Kiea]

Jonas Kiessling. Classification of certain cellular classes of chain complexes. arXiv: 0801.3904.

[Kieb]

Jonas Kiessling. Properties of cellular classes of chain complexes. arXiv: 0802.0108.

[Kon09]

Maxim Kontsevich. “Notes on motives in finite characteristic”. In: Algebra, arithmetic, and geometry: in honor of Yu. I. Manin. Vol. II. Vol. 270. Progr. Math. Boston, MA: Birkhäuser Boston Inc., 2009, pp. 213–247. arXiv: math/0702206. url: http://dx.doi.org/10.1007/978-0-8176-4747-6_7.

[Nee92a]

Amnon Neeman. “The Brown representability theorem and phantomless triangulated categories”. In: J. Algebra 151.1 (1992), pp. 118–155. url: http://dx.doi.org/10.1016/0021-8693(92)90135-9.

[Nee92b]

Amnon Neeman. “The chromatic tower for \(D(R)\)”. In: Topology 31.3 (1992). With an appendix by Marcel Bökstedt, pp. 519–532. url: http://dx.doi.org/10.1016/0040-9383(92)90047-L.

[Sta]

Don Stanley. Invariants of \(t\)-structures and classification of nullity classes. arXiv: math/0602252.