Chain Complexes

ホモロジーを扱う際には, (co)chain complex つまり ホモロジー代数の基礎が必要になる。 一般(コ)ホモロジーでも, スペクトル系列などにより, 実際には (co)chain complex の計算に帰着される場合が多い。

ホモロジー代数の教科書は数多く出版され, 選ぶのに困る程である。 トポロジーの専門家が書いたものもあるし, 代数への応用を念頭に書いたものもある。 とりあえず図書館で手当たり次第見てみるのがよいだろう。有名なものは Cartan と Eilenberg の [CE99], Mac Lane の [Mac95], そして最近のでは Gel\('\)fand と Manin の [GM03] や Weibel の [Wei94] などだろうか。 Springer の GTM のシリーズには Osborne の [Osb00] や Hilton と Stammbach の [HS97] といった本もある。もちろん, 代数の本にも基本的なことは書いてある。例えば Jacobson の [Jac85; Jac89] など。

Chain complex の基本的な性質や扱い方は 特異ホモロジーspectral sequence を学ぶ内に自然に身についていくものである。ただし, 将来のことを考えると chain complex の category の構造として理解しておくのがよいと思う。

まずは, chain complex であるが, その条件は完全列の条件の半分だと思うとよい。ホモロジーは chain complex がどれだけ完全列に近いかを測るものである。

  • chain complex とそのホモロジーの定義

初等的なホモロジー代数の本では chain complex とは (bounded) differential graded Abelian group として定義されているだろう。普通は環 \(R\) 上の differential graded module のことをいう。 抽象的なホモロジー代数では, Abelian categoryでの differential graded object ことである。

  • differential graded object

Chain complex と cochain complex に本質的な違いはない。 \(\{C_n,\partial _n\}\) が chain complex ならば \[ \begin {split} C^n & = C_{-n} \\ \delta ^n & = \partial _{-n} : C_{-n} \longrightarrow C_{-n-1} \end {split} \] とおけば, \(\{C^n,\delta ^n\}\) は cochain complex になる。

Chain complex の category の morphism は chain map と呼ばれる。

  • chain map
  • chain map からホモロジーの間に準同形が誘導されること

Chain complex の category にはホモトピーが定義される。

  • 二つの chain map の間のchain homotopy
  • 二つの chain map が chain homotopic ならば, ホモロジーに誘導した写像は一致する

ホモロジーの同型を誘導する写像は, quasi-isomorphism という。昔 Rochester での学生時代に受けた講義で, David Anick は quism という省略形を使っていたが, あまり使われているのを見たことがない。

  • quasi-isomorphism or quism

ホモトピーがあると, 位相空間の初等的なホモトピー論での概念の類似が定義できる。 たとえば deformation retraction など。Sköldberg の [Skö18] では contraction と呼ばれている。

  • chain complex の subcomplex への contraction

このSköldberg の論文は, Brown [Bro65] と Gugenheim [Gug72] によるcontraction の perturbation lemma から discrete Morse theory の主定理が導けることを示している。Discrete Morse theory では matching の概念が主要な役割を果す。ただし, free module から成る chain complex に限定されるが。

  • (free module から成る) chain complex 上の acyclic partial matching

Chain complex の category は Abelian category, よって exact category になる。

  • chain complex の完全列
  • chain complex の短完全列からホモロジーの長い完全列ができること

可換環上の chain complex の category は symmetric monoidal category になる。

  • chain complex の tensor product

ただし, tensor product を取るときの sign convention には注意が必要である。 他にも chain complex に様々な操作を行なうと, 符号が付く。これらについては, Math Overflow での Tyler Lawson の質問とその回答を見るとよい。そこから link が張られている Tyler Lawson の note が分りやすい。

Monoidal category があると, monoid object を考えたくなるが, 可換環 \(k\) 上の chain complex (differential graded module) の category の monoid object は, \(k\) 上の differential graded algebra (dg algebra) と呼ばれる。その many-objectification として dg category の概念を得る。

現代的には, ホモロジー代数とは chain complex の成す model category でのホモトピー論であると言ってもいいだろう。 Chain complex の成すモデル圏からは derived category も作られるので。 特に, unbounded chain complexを 扱うときには, モデル圏の言葉を用いるのがよい。Spaltenstein の [Spa88] にある \(K\)-projective や \(K\)-injective の概念を用いれば unbounded chain complex の圏でもホモロジー代数を行なうことができるが, Hinich が [Hin97] で指摘しているように, model category の言葉を使う方がより自然だろう。

Chain complex の圏の model structure については Hovey の本 [Hov99] に詳しく書いてある。元々は, Quillen が見つけたものであるが。 Chain complex の圏は, Abelian category になっているので, 現在では, Hovey の Abelian model category の枠組みの中で, cotorsion pair を用いて理解するのが良いと思う。

二つの chain complex の tensor product は double (chain) complex や bicomplex と呼ばれる, 2つの次数と2つの微分を持つものになる。 他にも, 複素多様体のコホモロジーなど, 様々な場面で登場する。

それ以外にも様々な一般化や変種が考えられている。

References

[Bro65]

R. Brown. “The twisted Eilenberg-Zilber theorem”. In: Simposio di Topologia (Messina, 1964). Gubbio: Edizioni Oderisi, 1965, pp. 33–37.

[CE99]

Henri Cartan and Samuel Eilenberg. Homological algebra. Princeton Landmarks in Mathematics. With an appendix by David A. Buchsbaum, Reprint of the 1956 original. Princeton, NJ: Princeton University Press, 1999, pp. xvi+390. isbn: 0-691-04991-2.

[GM03]

Sergei I. Gelfand and Yuri I. Manin. Methods of homological algebra. Second. Springer Monographs in Mathematics. Berlin: Springer-Verlag, 2003, pp. xx+372. isbn: 3-540-43583-2.

[Gug72]

V. K. A. M. Gugenheim. “On the chain-complex of a fibration”. In: Illinois J. Math. 16 (1972), pp. 398–414. url: http://projecteuclid.org/euclid.ijm/1256065766.

[Hin97]

Vladimir Hinich. “Homological algebra of homotopy algebras”. In: Comm. Algebra 25.10 (1997), pp. 3291–3323. arXiv: q-alg/9702015. url: http://dx.doi.org/10.1080/00927879708826055.

[Hov99]

Mark Hovey. Model categories. Vol. 63. Mathematical Surveys and Monographs. Providence, RI: American Mathematical Society, 1999, p. xii 209. isbn: 0-8218-1359-5.

[HS97]

P. J. Hilton and U. Stammbach. A course in homological algebra. Second. Vol. 4. Graduate Texts in Mathematics. Springer-Verlag, New York, 1997, pp. xii+364. isbn: 0-387-94823-6. url: http://dx.doi.org/10.1007/978-1-4419-8566-8.

[Jac85]

Nathan Jacobson. Basic algebra. I. Second. New York: W. H. Freeman and Company, 1985, pp. xviii+499. isbn: 0-7167-1480-9.

[Jac89]

Nathan Jacobson. Basic algebra. II. Second. New York: W. H. Freeman and Company, 1989, pp. xviii+686. isbn: 0-7167-1933-9.

[Mac95]

Saunders Mac Lane. Homology. Classics in Mathematics. Reprint of the 1975 edition. Berlin: Springer-Verlag, 1995, pp. x+422. isbn: 3-540-58662-8.

[Osb00]

M. Scott Osborne. Basic homological algebra. Vol. 196. Graduate Texts in Mathematics. New York: Springer-Verlag, 2000, p. x 395. isbn: 0-387-98934-X.

[Skö18]

Emil Sköldberg. “Algebraic Morse theory and homological perturbation theory”. In: Algebra Discrete Math. 26 (2018), pp. 124–129. arXiv: 1311.5803.

[Spa88]

N. Spaltenstein. “Resolutions of unbounded complexes”. In: Compositio Math. 65.2 (1988), pp. 121–154. url: http://www.numdam.org/item?id=CM_1988__65_2_121_0.

[Wei94]

Charles A. Weibel. An introduction to homological algebra. Vol. 38. Cambridge Studies in Advanced Mathematics. Cambridge University Press, Cambridge, 1994, pp. xiv+450. isbn: 0-521-43500-5; 0-521-55987-1. url: https://doi.org/10.1017/CBO9781139644136.