距離と距離空間

位相幾何学といっても, 一般の位相空間全てを相手にすることはほとんどなく, 実際に扱うのは, Euclid空間の部分空間, そして, せいぜい距離空間であることが多い。 距離空間については以下のことを知っておくべきだろう。

  • 距離 (metric) の定義
  • 距離から定まる位相
  • 距離空間の二つの部分集合の間の距離
  • 距離空間の部分集合の直径 (diameter)
  • 距離空間の部分集合が有界 (bounded) であること

距離空間は位相空間としてはかなり良い空間である。

  • 距離空間は normal である

距離空間の間の写像に対しては, 通常の連続性だけでなく一様連続性を考えることもできる。 一様連続写像を用いて調べることができる性質を抽象化したものとして, uniform space という概念がある。

Uniform space を定義する1つの方法として entourage を用いたものがあるが, 同様に entourage を使って定義される構造として coarse structure がある。

コンパクト距離空間では, Lebesgue 数が定義できる。 Lebesgue 数は, コンパクト距離空間の開被覆の不変量であるが, 他にも, 距離空間や関連した構造の不変量は色々ある。

コンパクト距離空間以外に, 様々な距離空間のクラスが考えられている。 目にしたものを挙げると, 以下のようになる。

有限距離空間はデータ解析の分野では point cloud と呼ばれるが, 位相空間としては離散位相を持つので, persistent homology を知る前は, その重要性に全く気がついていなかった。

距離空間の性質を調べる際には測地線 (geodesic) は重要である。Geodesic metric space とは, 任意の2点が最短距離を持つ道で結べ, その長さが距離になっているような距離空間である。 Behrstock と Charney [BC12] が right-angled Artin group の geodesic の divergence という不変量を調べているが, このように geometric group theory でも geodesic は重要なようである。

このように幾何学的な視点から距離空間を調べることも盛んに行なわれている。 Alexandrov space は, Riemann 多様体の一般化として考えられている距離空間のクラスである。 Burago と Gromov と Perelman [BGP92] は, Alexandrov の論文 [Ale51; Ale57] を参照している。

この文献ガイドの文献データは, Mathematical Reviews の Bib\(\mathrm {\TeX }\) データをそのまま使っているものが多いのであるが, 古い時代の Mathematical Reviews のデータでは, ロシア人の綴りがいい加減なので, Alexandrov \(=\) Aleksandrov \(=\) Aleksandrow であり, 検索するときにとても困る。 更に, finite space の一般化である Alexandroff space の Alexandroff は別人なので余計にややこしい。

微分幾何学では, metric の成す moduli space を考える。例えば, Walsh [Wal13] は, positive scalar curvature metric の成す空間のホモトピー型が調べられている。

距離付け可能な位相空間は, topological vector space の部分空間とみなすことができる。Feragen の [Fer08] は Lie 群作用する空間の場合を扱っているが, その Introduction によると, 群の作用の無い場合に Banach 空間に convex subspace の閉部分集合として埋め込めるというのは, Wojdyslawski embedding theorem というらしい。参考文献として Hu の [Hu65] が挙げてある。

距離の値として \(\infty \) まで許したものもよく使われる。 他にも距離の一般化は様々なものが導入されている。

Gromov は距離空間の間の距離も定義している。

  • Gromov-Hausdorff distance

近年, persitent homology の文脈でよく目にするようになった。

距離空間の 圏論的な解釈として, Lawvere による [Law73] がある。距離空間を \(\infty \) を含む非負の実数の成す poset \([0,\infty ]\) で enrich された small category と見なすというものであり, とても斬新な発想である。

References

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