スペクトラムに関する基本

スペクトラムについては, どのように勉強するのがいいのだろうか。 現在では, EKMMのスペクトラムsymmetric spectrumorthogonal spectrum のように洗練された, つまり symmetric symmetric monoidal model category になるスペクトラムの圏の構成があるので, 単に使うだけなら, そのような圏の存在を仮定していろんな文献を読んでみるのもいいだろう。

もちろん, スペクトラムの存在意義を理解するためには, やはり, その起源から辿って勉強した方がよい。 スペクトラムが登場する文脈として, 代表的なのは, Brown の表現可能性定理cobordism のホモトピー群としての表示である。

Brown の表現可能性定理を用いると, コホモロジーが, \(\Omega \) スペクトラムで表現される。 また, cobordism 群は Lima の意味のスペクトラム [Lim59] を用いて, ホモトピー群として表すことができる。

正確な定義および関連した概念の定義については, Adams の本 [Ada74] か荒木の本 [荒木捷75] を見ればよいだろう。

古典的なスペクトラムへのアプローチとしては, Lima のスペクトラムと \(\Omega \)スペクトラムが基本的であるが, Kan によるもう一つのアプローチもある。 Kan [Kan63] の simplicial アプローチである。 例えば, Ken Brown の [Bro73] で用いられている。

基本的なスペクトラムとしては以下のものがある。

古典的なスペクトラムの圏の最大の欠点は, ホモトピー圏まで落さないと smash product が定義されないことだろう。そのため環構造などの扱いが難しい。 そこで, Mayが \(E_{\infty }\)-ring spectrum などの概念を導入したのは, 1970年 代の終わりから80年代にかけてのことだった。その後, May は Elmendorf と Kriz と Mandell と共に [Elm+97] それを発展させて,スペクトラムのレベルでの smash product を含め, より扱い易いスペクトラムの圏を構成したが, 完成したのは20世紀も終わりに近づいたころだった。このことからも, スペクトラムの圏の構築がどれだけ大変だったかが分かるだろう。

環が, Abel群のなす monoidal category での monoid object として定義されるように, これらの monoidal model category での monoid object を環スペクトラム (ring spectrum), そして commutative monoid object を可換環スペクトラム (commutative ring spectrum) と呼ぶのは自然だろう。ただし, スペクトラムの積の可換性を扱うときは注意が必要であるが。

References

[Ada74]

J. F. Adams. Stable homotopy and generalised homology. Chicago, Ill.: University of Chicago Press, 1974, p. x 373.

[Bro73]

Kenneth S. Brown. “Abstract homotopy theory and generalized sheaf cohomology”. In: Trans. Amer. Math. Soc. 186 (1973), pp. 419–458. url: https://doi.org/10.2307/1996573.

[Elm+97]

A. D. Elmendorf, I. Kriz, M. A. Mandell, and J. P. May. Rings, modules, and algebras in stable homotopy theory. Vol. 47. Mathematical Surveys and Monographs. With an appendix by M. Cole. Providence, RI: American Mathematical Society, 1997, pp. xii+249. isbn: 0-8218-0638-6.

[Kan63]

Daniel M. Kan. “Semisimplicial spectra”. In: Illinois J. Math. 7 (1963), pp. 463–478. url: http://projecteuclid.org/euclid.ijm/1255644953.

[Lim59]

Elon L. Lima. “The Spanier-Whitehead duality in new homotopy categories”. In: Summa Brasil. Math. 4 (1959), 91–148 (1959).

[荒木捷75]

荒木捷朗. 一般コホモロジー. Vol. 4. 紀伊國屋数学叢書. 東京: 紀伊國屋書店, 1975.