何はともあれ「数」は数学の基本である。 代数的トポロジーを学ぶためにも「数」について色んなことが必要になる。
その中でも数を数えるのは基本だろう。 例えば, コホモロジー作用素を使うときには, 二項係数が必要になる。
また 様々な空間を定義するときには, Euclid空間やその部分空間をよく使う。 なので, 実数について知っている必要がある。
例えば, 閉区間 \([0,1]\) は, トポロジーでは homotopy や path を定義するための定義域としても基本的である。 その視点からの \([0,1]\)
の特徴付けが, Leinster の [Lei11] にある。 元は Freyd によるもののようであるが。
- self-similarity による \([0,1]\) の特徴付け
自然数は 集合論の公理から得られ, 整数や有理数は自然数から代数的な構成により得られる。 しかしながら, 有理数から実数を構成するには,
完備化の操作が必要になる。 その構成の中で最も有名なものは, Dedekind の切断だろうが, それ以外にも, 様々なものがある。
それらを集めたものとして, Ittay Weiss の [Wei15] がある。 19の方法が紹介されている。他にも次のようなものがある。
- MacNeille の方法
- A’Campo の構成 [ACa21]
- Hermans の BSc thesis [Her18]
MacNeille の実数については, この nLab の記事を読むのが良いと思う。
A’Campo の構成と類似の方法は Street の [Str03] に書かれているが, そこでは Schanuel による,
とされている。Arthan の [Art] にも登場する。
実数の内, 素数は代数的トポロジーでも重要である。 空間の情報を素数で局所化して考えることが多いが, その際 \(2\) や \(3\)
などの小さな素数では例外的なことが起る。 また有理数で局所化して考えるのが, rational homotopy theory
である。
連分数の一般的な形 \[ x_{1}+\frac {1}{x_{2}+\frac {1}{x_{3}+\frac {1}{\ddots x_{n-1}+\frac {1}{x_{n}}}}} \] は \(x_{1},\ldots ,x_{n}\) の多項式 \(K_{n}(x_{1},\ldots ,x_{n})\) を用いて \(\frac {K_{n}(x_{1},\ldots ,x_{n})}{K_{n-1}(x_{2},\ldots ,x_{n})}\) の形に表せるが, この多項式を Euler の continuants と呼ぶ, らしい。
Dyckerhoff, Kapranov, Schechtman の [DKS] で知った。 彼等は, その categorical lift
を定義している。
- continued fraction
- Euler’s continuant
連分数と関連したものとして, グラフを用いて実数を表す方法がある。 有名なのは Farey によるもので, 上半平面や Poincaré
disk などの 双曲幾何学のモデルを用いて図示される。 Hatcher の本 [Hat] の Chapter 1 で解説されている。
グラフを用いて実数を表す方法は, 他にも, [BI09] や [CLL22] などがある。
Kontsevich と Zagier [KZ01] によると, 興味深い数の多くは period として現れる。Period とは,
有理数係数の代数方程式や代数不等式で表された領域上の代数関数の積分として表される数のことである。
Belkale と Brosnan [BB03] によると, Kontsevich と Zaiger の論文の目的は, 「新しい超越数
(かもしれない数) に出会ったら, それが period かどうかを考える」ことの正当性を主張することのようである。
実数の次は複素数である。 複素数についても高校の頃 (?) から慣れ親しんでいるだろうが, 例えば, Arnol\('\)d の [Arn95]
の§5にあるような実数と複素数の比較は, ある程度勉強した後でないと理解するのは難しいだろう。
- Morse 理論の複素数版は, Picard-Lefschetz theory
- Stiefel-Whitney class の複素数版は, Chern class
- 向きの付いた多様体の複素数版は Calabi-Yau多様体
- 境界を持つ多様体の複素数版は \(2\)-ramified covering
境界を持つ多様体の複素数版が \(2\)-ramified covering である, ということについては, Arnol\('\)d の [Arn00]
に簡単な説明がある。 Morse theory の複素数版が Picard-Lefschetz theory であることについても,
簡単な説明がある。
最近でも, Donaldson-Thomas 理論 [DT98] のように, 既存の理論の複素数版を考えることにより,
大きく進展した分野もある。
\(\R \) と \(\bbC \) の次は四元数体 \(\Ha \), その次は八元数体 \(\mathbb {O}\), 通称 Cayley数体である。
上記の Arnol\('\)d による実数と複素数の比較に四元数も入れたものを, triality と呼ぶようである。Arnol\('\)d の [Arn00]
に25個の triality の例を一覧表にしたものがある。
これらの「数」には, 複素共役の類似があり, それを用いると \(q(z)=\bar {z}z\) として quadratic form が定義される。 これを一般化した概念として
composition algebra がある。
Composition algebra は, \(\R \), \(\bbC \), \(\Ha \), \(\mathbb {O}\) 以外に存在しないというのが, Hurwitz の定理である。
ただ, composition algebra という条件を外せば, この次元を\(2\)倍にする操作 (Dickson の2重化)
を続けることはできる。そのようにしてできた“algebra” を Cayley-Dickson algebra と呼ぶ。
数列は高校の数学から微分積分学で登場するが, 整数から成る数列は, 組み合せ論的に意味のある数列も多い。そのようなものについては,
Sloane により作られた website がある。
2次元的に数を配置したものとして, Coxeter [Cox71] により導入された frieze pattern というものがある。 その論文では,
1602年の Nathaniel Torperley の仕事に言及されているが。
元々の Coxeter の動機は連分数を調べることだったようであるが, 最近よく見かけるようになったのは, cluster algebra
との関係が発見されたからのようである。 古い文献としては, Conway と Coxeter の [CC73a; CC73b] があるが,
そこでは多角形の三角形分割との関係が証明されている。 新しいものでは, Mathematical Intelligencer の Baur による解説
[Bau21] がある。 Cluster algebra のと関連も含めて解説したものとしては, Morier-Genoud の [Mor15] や
Pressland の [Pre23] がある。 Tabachnikov の Numberphile での Youtube 動画も見る価値がある。
その続編もある。
実数の拡張 (?) としては, Morier-Genoud らによる実数の \(q\)-deformation [MO22] もある。
- \(q\)-deformed real number
逆に実数の中で重要なものとして, 当然であるが, 素数がある。 もちろん数学の基本として素数のことは知っておかなければならないが,
代数的トポロジーでは, 空間をある素数で 局所化して考えることが多いし, ホモロジーの計算でも素数\(p\)を法とした係数, つまり有限素体
\(\F _p\)係数での計算に帰着させて議論することが多いからである。 そのような計算では, 二項係数の mod \(p\) での公式を知っていると役に立つ。
また \(0\) で局所化するということは, rational homotopy type を考えることになる。
\(\Q \) を位相空間とみなしたときには, Sierpinskiの定理により同相 \(\Q ^2\cong \Q \) があるので, この MathOverflow の質問 にあるように, \(\Q ^n\)
をモデルとした多様体を考えることは意味がなさそうである。 Sierpinski の定理については, この MathOverflow の質問への
Chapman の回答を見るとよい。
もちろん, より高度な数論の知識もあった方がよい。特に, 安定ホモトピー論を勉強するためには。
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