ホモトピー群の基本

ホモトピー群のことが書いてある本はいくつかあるが, 最初にこの本を読んでおけばいい, という本はない, ように思う。 複数の本を辞書的に使い, 以下のことを調べておくのがいいだろう。 その際使えるのは Gray の本 [Gra75], Whitehead の本 [Whi78], 小松-中岡-菅原 [小中菅67], 西田の本 [西田吾85] などだろうか。 ファイバー束の本 [玉木大20] にも, 必要なことは書いた。

  • 基点付き空間 \((X,x_0)\) に対し \(n\)次ホモトピー群 \(\pi _n(X,x_0)\) の定義
  • 基点を保つ連続写像 \[ f : X \longrightarrow Y \] から誘導された写像 \[ f_* : \pi _n(X,x_0) \longrightarrow \pi _n(Y,f(x_0)) \] の定義
  • \(\pi _0(X)\) は \(X\) の弧状連結成分の成す集合と同一視できる
  • \(\pi _n(X,x_0)\) は \(n\ge 1\) で群, \(n\ge 2\) でアーベル群になる
  • 空間が \(n\)連結 (\(n\)-connected) であることの定義

基本群が自明でないときには, 基本群の高次ホモトピー群への作用が canonical に定義される。その作用が自明なときには, 単連結な場合に近い議論ができる。

  • 基本群 \(\pi _1(X,x_0)\) のホモトピー群 \(\pi _n(X,x_0)\) への作用の定義, より一般に \(X\) の中の道 \[ \ell : [0,1] \longrightarrow X \] で \(\ell (0)=x_0\), \(\ell (1)=x_1\) であるものに対し \[ \ell _{\#} : \pi _n(X,x_1) \longrightarrow \pi _n(X,x_0) \] の定義
  • 空間が単純 (simple), \(n\)単純 (\(n\)-simple) であることの定義
  • \(X\) が\(1\)単純であることと, 基本群 \(\pi _1(X)\) が可換であることは同値
  • \(X\) が\(n\)単純であることと, ある基点 \(x_0\in X\) に対し “基点を忘れる”写像 \[ \pi _n(X,x_0) \longrightarrow [S^n,X] \] が全単射であることは同値
  • 基本群の作用が巾零 (nilpotent) であることの定義

このMathOverflowの質問で, 空間を simple化する functor があるかどうか, について議論されている。

ホモトピー群を調べる (計算する) 際の, 最も基本的な道具は, ファイブレーションに対する長い完全列である。

もう一つのファイブレーションの用途として, Postnikov分解のように, 調べたい空間をファイブレーションのタワーに分解する, というものがある。 そのときには, 当然その limit のホモトピー群とホモトピー群の limit の違いが重要である。これについては, sequential colimit のコホモロジーのように \(\limitone \) 完全列がある。

  • 基点付き空間のファイブレーションのタワー \[ \cdots \rarrow{} X_{n+1} \rarrow{p_{n+1}} X_{n} \rarrow{} \cdots \rarrow{p_1} X_0 \] に対し完全列 \[ 1 \rarrow{} \limitone _{n} \pi _{k+1}(X_n) \rarrow{} \pi _{k}\left (\lim _{n} X_n\right ) \rarrow{} \lim _{n} \pi _k(X_n) \rarrow{} 1 \] がある。

もちろん, \(k\) の値によって完全列の意味は変わる。Hirschhorn の [Hir] とそこに挙げあられている文献を見るとよい。

球面の (unstable) ホモトピー群については, 次の EHP sequence と Toda bracket が重要な道具である。

Hopf invariant には, 安定ホモトピー圏での morphism として定義する Crabb と James [CJ98; CR10] の geometric Hopf invariant というものもある。他にも様々な variation がある。

Whietehead積は, 合成で定義される作用素と並んで, 基本的なホモトピー作用素である。

ホモロジーの対の完全列の類似の長い完全列も存在する。

  • 対のホモトピー群 \(\pi _n(X,A,x_0)\) の定義
  • \(\pi _n(X,A,x_0)\) は \(n\ge 2\) で群, \(n\ge 3\) でアーベル群になる
  • 基点付き位相空間対 \((X,A,x_0)\) に対するホモトピー群の長い完全列

ホモロジーとホモトピー群の最大の違いは, ファイブレーションコファイブレーションに対する対照的な振舞いである。 しかしながら, 考えている空間の 連結性に比べ比較的小さな次元に限れば, 同様の性質が成り立つ。

  • Freudenthal の懸垂定理 (suspension theorem)

Freudenthal の懸垂定理により, Freudenthal suspension \[ E : \pi _{n+k}(\Sigma ^kX) \longrightarrow \pi _{n+k+1}(\Sigma ^{k+1} X) \] は, \(k\) が \(n\) に比べて十分大きいとき同型になる。この「\(k\)が十分大きいとき」 を厳密に扱おうと思うと, 安定ホモトピー群を導入する必要がある。

  • 基点付き空間 \(X\) に対し, その安 定ホモトピー群 (stable homotopy group) \(\pi _n^S(X)\)

Freudenthalの懸垂定理と関連が深い定理として, Blakers-Massey のホモトピー切除定理がある。

直接ホモロジーとホモトピー群の関係を見るためには, 次の Hurewicz の定理がある。 van Kampen の定理に対し, van Kampen spectral sequence があるように, より一般には, Hurewicz spectral sequence というものもある。

ホモロジー群が Eilenberg と Steenrod の公理で特徴づけられるように, ホモトピー群を公理で特徴付けるという方法もある。Milnor の [Mil56] の I の §4 である。Hu の本 [Hu59] にその解説がある。

Kan complexsimplicial Abelian group などに対してもホモトピー群が定義されるが, とりあえず, 最初は連続写像のホモトピー類のなす群として理解するのがよいだろう。

References

[CJ98]

Michael Crabb and Ioan James. Fibrewise homotopy theory. Springer Monographs in Mathematics. London: Springer-Verlag London Ltd., 1998, pp. viii+341. isbn: 1-85233-014-7. url: http://dx.doi.org/10.1007/978-1-4471-1265-5.

[CR10]

Michael Crabb and Andrew Ranicki. “The geometric Hopf invariant and double points”. In: J. Fixed Point Theory Appl. 7.2 (2010), pp. 325–350. arXiv: 1002.2907. url: http://dx.doi.org/10.1007/s11784-010-0024-x.

[Gra75]

Brayton Gray. Homotopy theory. An introduction to algebraic topology, Pure and Applied Mathematics, Vol. 64. New York: Academic Press [Harcourt Brace Jovanovich Publishers], 1975, pp. xiii+368.

[Hir]

Philip S. Hirschhorn. The homotopy groups of the inverse limit of a tower of fibrations. arXiv: 1507.01627.

[Hu59]

Sze-tsen Hu. Homotopy theory. Pure and Applied Mathematics, Vol. VIII. New York: Academic Press, 1959, p. xiii 347.

[Mil56]

John Milnor. “Construction of universal bundles. I, II”. In: Ann. of Math. (2) 63 (1956), pp. 272–284, 430–436.

[Whi78]

George W. Whitehead. Elements of homotopy theory. Vol. 61. Graduate Texts in Mathematics. New York: Springer-Verlag, 1978, p. xxi 744. isbn: 0-387-90336-4.

[小中菅67]

小松醇郎, 中岡稔, and 菅原正博. 位相幾何学 I. 東京: 岩波書店, 1967.

[玉木大20]

玉木大. ファイバー束とホモトピー. 森北出版, 2020, p. 320. isbn: 978-4-627-05461-5.

[西田吾85]

西田吾郎. ホモトピー論. Vol. 16. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1985.