Quasifibration

ファイブレーション は, ファイバー束 の一般化であり, quasifibration は, そのホモトピー群に関する性質を抜き出した, ファイブレーションの一般化である。

ファイブレーションの基本的な性質を知っていれば, その定義は自然なものに思えるだろう。

  • quasifibration の定義

元々 Dold と Thom により [DT58] で導入されたものであるが, May の [May90] を見た方がよいだろう。

Quasifibration は, 日本語では準ファイバー空間と呼ばれることが多い。 例えば, 西田の本 [西田吾85] など。 ただ, これはかつてファイブレーションを「ファイバー空間」 と訳していたときの名残である。 写像を「ファイバー空間」と呼ぶのは変なので, [玉20] では, 準ファイブレーションと呼ぶことにした。

Waldhausen は, [Wal85] などで “fibration up to homotopy” と呼んでいる。

ファイブレーションは, モデル圏の枠組みにうまく当てはまるので扱いやすい。 ファイブレーションに関しては, 図式を用いて形式的な操作で種々のことが証明できる。 しかしながら, 現実には調べたい写像は, ファイブレーションではなく quasifibration でしかないことが多い。例えば

  • コファイブレーション \[ A \hookrightarrow X \longrightarrow X/A, \] に対し次の quasifibration がある。 \[ \mathrm {SP}^{\infty }(A) \rarrow {\mathrm {SP}^{\infty }(i)} \mathrm {SP}^{\infty }(X) \rarrow {\mathrm {SP}^{\infty }(p)} \mathrm {SP}^{\infty }(X/A) \] ここで \(\mathrm {SP}^{\infty }(X)\) は \(X\) の無限対称積である。
  • 位相 monoid \(H\) が非退化な単位元を持つなら, quasifibration \[ H \longrightarrow EH \longrightarrow BH \] で \(EH\) が可縮なものが存在する。

この2つの quasifibration には, 実は次のような関係がある。これは Milgram が [Mil67] で Example 1.8 として述べていることである。これは, Dold-Thom の定理の別証を与えていることに注意する。

  • 図式 \[ Y \larrow {f} X \rarrow {g} Z \] の double mapping cylinder について, 次の同相がある: \[ \mathrm {SP}^{\infty }(Y\cup _f X\times I\cup _g Z) \cong B(\mathrm {SP}^{\infty }(Y),\mathrm {SP}^{\infty }(X), \mathrm {SP}^{\infty }(Z)) \] ここで \(B\) は two-sided bar construction である。 更にコファイブレーション \[ A \hookrightarrow X \] に対し, quasifibration \[ \mathrm {SP}^{\infty }(A) \longrightarrow \mathrm {SP}^{\infty }(X\cup A\times I) \longrightarrow \mathrm {SP}^{\infty }(X\cup CA) \] は two-sided bar construction の quasifibration \[ \mathrm {SP}^{\infty }(A) \longrightarrow B(\mathrm {SP}^{\infty }(X),\mathrm {SP}^{\infty }(A), \mathrm {SP}^{\infty }(A)) \longrightarrow B(\mathrm {SP}^{\infty }(X), \mathrm {SP}^{\infty }(A),\mathrm {SP}^{\infty }(\ast )) \] と一致する。

Quasifibration は pullback で保存されないことには注意すべきである。特に, ファイバー束やファイブレーションに慣れた人は。 例えば, [Tam21] に Example 5.11.5 として挙げたものがある。

  • Quasifibration \(p : E \to B\) と連続写像 \(X \to B\) で \(p\) の \(f\) による pullback が quasifibration にならない例

ファイバー束やファイブレーションの場合は, 既知のものから pull-back により新しいファイバー束やファイブレーションを作ることは, 基本的なテクニックだったが, この事実により, quasifibration の場合はその手は使えないことが分かる。 新しい quasifibration を作るときに基本的なのは, Dold-Thom criterion と呼ばれる条件である。

このように quasifibration は fibration とかなり異なった面を持つが, もちろん fibration と共通の性質もある。

  • Topological monoid \(G\) に対し principal \(G\)-quasifibration の定義
  • 位相 monoid \(H\) に対し, \[ H \longrightarrow EH \longrightarrow BH \] は principal quasifibration である。
  • Principal quasifibration の分類定理がある。

以上のことについては [西田吾85] をみるとよい。

Simplicial set の場合は, quasifibration を得る方法として, Waldhausen の [Wal78; Wal85] で述べられている方法がある。 そのCW複体での類似として, Goodwillie が次の判定法を [Goo92] で述べている。

  • 連続写像 \[ p : E \longrightarrow B \] を考える。任意の \(n\) と任意の連続写像 \[ \varphi : D^{n} \longrightarrow B \] に対し, pullback \[ D^{n}\times _{B} E \longrightarrow D^{n} \] が quasifibration ならば, \(p\) は quasifibration である。

Blumberg と Mandell [BM11] は, simplicial set の場合に pullback が常に quasifibration になるようなものを universal simplicial quasifibration と呼んで, どういう場合に universal になるかを調べている。

  • universal simplicial quasifibration

Rezkは, [Rez] で sharp map という概念を導入した。 任意の点 \(x\in B\) に対し, 図式 \[ \xymatrix { p^{-1}(x) \ar [r] \ar [d] & E \ar [d]^{p} \\ \{x\} \ar [r] & B } \] が homotopy Cartesian であるということで, quasifibration が定義されることから, 一点の inclusion だけでなく, 任意の base change に対し homotopy Cartesian になるような写像として定義するのである。Simplicial set の sheaf の圏での sharp map に対しては, Dold-Thom criterion の類似が成り立つ, らしい。

一般化としては, Roushon が [Rou; Rou23] で導入したものもある。

  • almost-quasifibration
  • \(k\)-almost-quasifibration
  • \(k\)-\(c\)-quasifibration

References

[BM11]

Andrew J. Blumberg and Michael A. Mandell. “Algebraic \(K\)-theory and abstract homotopy theory”. In: Adv. Math. 226.4 (2011), pp. 3760–3812. arXiv: 0708.0206. url: http://dx.doi.org/10.1016/j.aim.2010.11.002.

[DT58]

Albrecht Dold and René Thom. “Quasifaserungen und unendliche symmetrische Produkte”. In: Ann. of Math. (2) 67 (1958), pp. 239–281. url: https://doi.org/10.2307/1970005.

[Goo92]

Thomas G. Goodwillie. “Calculus. II. Analytic functors”. In: \(K\)-Theory 5.4 (1991/92), pp. 295–332. url: http://dx.doi.org/10.1007/BF00535644.

[May90]

J. P. May. “Weak equivalences and quasifibrations”. In: Groups of self-equivalences and related topics (Montreal, PQ, 1988). Vol. 1425. Lecture Notes in Math. Berlin: Springer, 1990, pp. 91–101. url: http://dx.doi.org/10.1007/BFb0083834.

[Mil67]

R. James Milgram. “The bar construction and abelian \(H\)-spaces”. In: Illinois J. Math. 11 (1967), pp. 242–250. url: http://projecteuclid.org/euclid.ijm/1256054662.

[Rez]

Charles Rezk. Fibrations and homotopy colimits of simplicial sheaves. arXiv: math/9811038.

[Rou]

S K Roushon. Almost-quasifibrations and fundamental groups of orbit configuration spaces. arXiv: 2111.06159.

[Rou23]

S. K. Roushon. “\(k\)-almost-quasifibrations”. In: Indian J. Pure Appl. Math. 54.3 (2023), pp. 848–857. arXiv: 2206 . 10250. url: https://doi.org/10.1007/s13226-022-00303-z.

[Tam21]

Dai Tamaki. Fiber bundles and homotopy. World Scientific Publishing Co. Pte. Ltd., Hackensack, NJ, [2021] ©2021, pp. xii+324. isbn: 978-981-123-799-7; 978-981-123-809-3; 978-981-123-810-9. url: https://doi.org/10.1142/12308.

[Wal78]

Friedhelm Waldhausen. “Algebraic \(K\)-theory of generalized free products. I, II”. In: Ann. of Math. (2) 108.1 (1978), pp. 135–204.

[Wal85]

Friedhelm Waldhausen. “Algebraic \(K\)-theory of spaces”. In: Algebraic and geometric topology (New Brunswick, N.J., 1983). Vol. 1126. Lecture Notes in Math. Berlin: Springer, 1985, pp. 318–419. url: http://dx.doi.org/10.1007/BFb0074449.

[玉20]

玉木大. ファイバー束とホモトピー. 森北出版, 2020, p. 320. isbn: 978-4-627-05461-5.

[西田吾85]

西田吾郎. ホモトピー論. Vol. 16. 共立講座現代の数学. 東京: 共立出版, 1985.