モデル圏に関する基本的な定義

ある圏上のモデル圏の構造とは, 大雑把に言えば, fibration, cofibration, 弱同値の3種類の morphism の class (subcategory) で, それらが位相空間やsimplicial set におけるfibration, cofibration, (弱) ホモトピー同値と同様の性質をみたすようなもののことである。

正確な定義をするためには, 準備が必要である。まずは, limit と colimit の概念をよく理解する必要がある。 また超限帰納法なども, 知っていた方がよいだろう。

そして Hovey の本[Hov99] で以下のことを調べること。

  • morphism の retract の定義
  • functorial factorization の定義
  • left lifting property と right lifting property の定義

これで (現代的な) モデル圏の公理を述べることができる。

  • (Hoveyによる) モデル構造 (model structure) の定義
  • (Hoveyによる) モデル圏の定義

注意すべきは, 「モデル圏」の定義が文献によって異なることである。 元々 Quillen が[Qui67] の Chapter I §1 で与えたモデル圏の公理 (M0, M1, M2, M3, M4, M5) は, 現在ではほとんど使れることはない。 現在モデル圏と呼ばれているのは, Quillen が closed model category と呼んだものである。ただし, Quillen は finite (co)limit の存在しか要求しなかったし, factorization も functorial であることを要求しなかった。 Hovey の本が登場して以来 factorization が functorial であることを要求するのが普通になったが, 後述するように, factorization が functorial であることを要求することには疑問がある。

また, [Qui67] の Chapter I §1 の公理の内, M3 と M4 で使われている言葉 (co)base change (と (co)base extension) については定義がない。内容から定義は想像できるが, その想像が正しいことを確かめたければ [DS95] の 2.16 と 2.23 を見るとよい。また Quillen の M3 と M4 が現代的なモデル圏の公理から証明できることは, 同じく [DS95] の Proposition 3.14 にある。

モデル圏の lifting に関する公理をみたすような morphism の class の組, fibration と trivial cofibraion や trivial fibration と cofibration などのようなものには, factorization system あるいは weak factorization system という名前が付いている。Joyal と Tierney の [JT07] の appendix では, model structure の定義は weak factorization system を用いて述べてあり, 非常に簡潔である。

前述したように, Hovey の本 [Hov99] 以来, factorization が functorial であることを仮定するのが当たり前になってしまったが, Chorny の [Cho06] にあるように, factorization が functorial に取れるかどうか分からない場合もある。その元になっているのは, Isaksen の仕事 [Isa04] のようであるが。

また, Riehl [Rie11] によると, functorial であることを仮定しても, lifting の図式の左側と右側の morphism の class が colimit や limit で閉じているかなど, weak factorization system には欠点があるらしい。それを改良したのが, Grandis と Tholen [GT06] の natural weak factorization system であり, それに基づいた Garner [Gar09] による small object argument の “algebraic refinement” である。Riehl は, それに基づいて algebraic model structure を定義している。

  • algebraic model structure

以上の, functorial factorization の存在, またそれが canonical であるかという疑問については, MathOverflow で Tyler Lawson が質問している。 Rielh や Garner 自身らによる回答がある。Peter May による簡潔なまとめが最もポイントが高くなっているが。

このように, 現在モデル圏と呼ばれているものには細かいところまで見ると, 色々バリエーションがある。実際に使うときには, 目的に合ったものを自分で見付ける, あるいは作る必要がある。 そのようなものとして, Thomason が model structure を functor category に lift するために考えたものがある。

  • Thomason model category

残念ながら, 出版されたものはないが, Weibel が [Wei97; Wei01] で解説している。

モデル圏は morphism に関する条件で定義されているが, 特別な object で重要なものもある。

  • fibrant object
  • cofibrant object

Isaev [Isa] は, 全ての object が fibrant である model category を minimal model category と呼んでいる。

Object を (co)fibrant なもので置き換えるという操作は, 頻繁に使う。

  • object の fibrant replacement
  • object の cofibrant replacement

実際にある圏がモデル圏であることを示そうと思うと, それがかなり面倒なことであることが分かる。 特に functorial factorization を構成するのが大変である。 よって少数の morphism から model structure を生成したり, 既知の model structure を移したり, というテクニックが考えられている。

References

[Cho06]

Boris Chorny. “A generalization of Quillen’s small object argument”. In: J. Pure Appl. Algebra 204.3 (2006), pp. 568–583. arXiv: math/0401424. url: http://dx.doi.org/10.1016/j.jpaa.2005.06.013.

[DS95]

W. G. Dwyer and J. Spaliński. “Homotopy theories and model categories”. In: Handbook of algebraic topology. Amsterdam: North-Holland, 1995, pp. 73–126. url: http://dx.doi.org/10.1016/B978-044481779-2/50003-1.

[Gar09]

Richard Garner. “Understanding the small object argument”. In: Appl. Categ. Structures 17.3 (2009), pp. 247–285. arXiv: 0712.0724. url: http://dx.doi.org/10.1007/s10485-008-9137-4.

[GT06]

Marco Grandis and Walter Tholen. “Natural weak factorization systems”. In: Arch. Math. (Brno) 42.4 (2006), pp. 397–408.

[Hov99]

Mark Hovey. Model categories. Vol. 63. Mathematical Surveys and Monographs. Providence, RI: American Mathematical Society, 1999, p. xii 209. isbn: 0-8218-1359-5.

[Isa]

Valery Isaev. On fibrant objects in model categories. arXiv: 1312.4327.

[Isa04]

Daniel C. Isaksen. “Strict model structures for pro-categories”. In: Categorical decomposition techniques in algebraic topology (Isle of Skye, 2001). Vol. 215. Progr. Math. Basel: Birkhäuser, 2004, pp. 179–198. arXiv: math/0108189.

[JT07]

André Joyal and Myles Tierney. “Quasi-categories vs Segal spaces”. In: Categories in algebra, geometry and mathematical physics. Vol. 431. Contemp. Math. Providence, RI: Amer. Math. Soc., 2007, pp. 277–326. arXiv: math/0607820.

[Qui67]

Daniel G. Quillen. Homotopical algebra. Lecture Notes in Mathematics, No. 43. Berlin: Springer-Verlag, 1967, iv 156 pp. (not consecutively paged).

[Rie11]

Emily Riehl. “Algebraic model structures”. In: New York J. Math. 17 (2011), pp. 173–231. arXiv: 0910.2733. url: http://nyjm.albany.edu:8000/j/2011/17_173.html.

[Wei01]

Charles Weibel. “Homotopy ends and Thomason model categories”. In: Selecta Math. (N.S.) 7.4 (2001), pp. 533–564. arXiv: math/0106052. url: http://dx.doi.org/10.1007/s00029-001-8098-3.

[Wei97]

Charles A. Weibel. “The mathematical enterprises of Robert Thomason”. In: Bull. Amer. Math. Soc. (N.S.) 34.1 (1997), pp. 1–13. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0273-0979-97-00707-6.