胞体複体についての基本的なことがら

CW複体は, かつて古典的な代数的トポロジーの中心的な研究対象だったが, 現在でも, 色んな意味で, CW複体や胞体複体のことを知っていると便利である。また, Kozlov らの combinatorial algebraic topology のように, 代数的トポロジーの道具を, 組み合せ論の問題に応用しようと考えるときには, 胞体複体, 特に, regular cell complex は重要である。

胞体複体やCW複体の定義や基本的な性質は, たいていの代数的トポロジーの教科書に載っているはずである。個人的には, Fomenko, Fuks, Gutenmacher の本 [FFG89] が好きである。証明は曖昧なところもあるが, 幾何学的であり, CW複体を扱うよい練習になる。 正確には, Whitehead の本 [Whi78] を読むのがいいと思うが。 CW複体についてまとめた本としては, [LW69] や [FP90] があるが, 私はちゃんと読んだことがない。 Whitehead の本や May の concise course [May99] のCW複体の扱いは現代的であり, [小中菅67] などの古い本のものとは少し異なっている。

これらの代数的トポロジーの文献では, regular cell complex やその face poset について触れられていない場合が多いので, Kozlov 本 [Koz08] や Björner の [Bjö95] で補うとよい。

  • 胞体 (cell) とその 特性写像 (characteristic map) の定義
  • 胞体複体 (cell complex) の定義
  • 胞体複体の skeleton の定義
  • 部分複体 (subcomplex) の定義
  • 有限複体 (finite complex) の定義
  • 局所有限 (locally finite) であることの定義
  • 局所可算 (locally countable) であることの定義
  • (古典的な) CW複体の定義
  • 局所有限な胞体複体はCW複体である

胞体複体の間の連続写像で skeleton を保つものを cellular map という。 これは, 胞体を胞体にうつす写像を想像しそうなので良くない名前だと思うが, 既に一般的になっている名前なので, どうしようもない。 胞体を胞体にうつす写像には, 胞体複体の文脈では名前が付いていない, と思う。ただし, stratified space とみなしたときには stratified space の morphism であるが。

  • 胞体写像 (cellular map) の定義
  • 胞体近似定理。つまりCW複体の間の任意の連続写像に対し, その写像と homotopic な胞体写像が存在する。
  • 胞体近似定理の相対版

胞体近似定理は, May の Concise Course [May99], Spanier の 本 [Spa81], Hatcher の本 [Hat02] などに書かれている。

古典的なCW複体の欠点は, 例えば, 2つのCW複体の直積がCW複体になるとは限らないことである。 直積をCW複体とみなすためには, 局所有限性や局所可算性の条件をつけるか, または位相をとりかえなければならない。 例えば [小中菅67] の第2章定理1.11を見るとよい。

  • CW複体 \(X\) と \(Y\) に対し, \(X\) が局所有限ならば, \(X\times Y\) もCW複体
  • CW複体 \(X\) と \(Y\) が共に局所可算ならば, \(X\times Y\) もCW複体
  • CW複体の直積がCW複体にならない例 [Dow52]
  • CW複体 \(X\) と \(Y\) に対し, \(X\times Y\) に閉被覆 \(\set {\bar {e}_1\times \bar {e}_2}{e_1: \text {cell in $X$}, e_2: \text {cell in $Y$}}\) による弱位相を入れると, CW複体になる

Tanaka [Tan82] によると, 連続体仮説を仮定すると, \(X\times Y\) がCW複体になるための必要十分条件は, \(X\) または \(Y\) が局所有限か, または \(X\) と \(Y\) が共に局所可算であることである。これは, Liu [Liu78] の結果らしい。

現代的には, 胞体の閉包の直積による弱位相ではなく, コンパクト生成位相を持った位相空間の圏で考える。 詳しくは, Whitehead の本 [Whi78] を参照のこと。

  • コンパクト生成位相を持った空間での filtration によるCW複体の定義
  • 相対CW複体 (relative CW complex) の定義

ホモトピー論では, CW複体を考えれば十分であることの根拠は以下のもの。 May の Concise Course [May99] には, 相対版も含め簡潔にまとめられている。

この, 位相空間をCW複体で置き換える方法としては, Hirschhorn [Hir] による functorial な構成がある。

また,具体的に与えられた空間に対し, それとホモトピー同値な\(CW\)複体で, できるだけ小さなものを見付けられるとうれしい。 そのようなものが存在する代表は, 複素 hyperplane arrangement の補集合 である。

具体的な胞体分割を用いた議論をするときには, CW複体の条件だけでは不十分な場合もある。そのようなときは, 胞体がつぶれていないようなもの, つまり regular なもの, を考える方がよい。[Whi78]

その他, CW複体については, とりあえず以下のことを知っていればよいだろう。

  • \(X\) を CW複体とし \(\Lambda _n\) を\(X\)の\(n\)胞体の集合とする。すると, 各 \(n>0\) に対し次の同相がある \[ X^{(n)}/X^{(n-1)} \cong \bigvee _{e \in \Lambda _n} S^n_e \] ここで \(S^n_e\) は\(n\)次元球面 \(S^n\) のコピーである。
  • \(X\) がCW複体で \(A\) が \(X\) の部分複体ならば, 包含写像 \[ i : A \hookrightarrow X \] は, cofibration になる。 つまり, \(i\) は, 任意の連続写像に対し, ホモトピー拡張性質を持つ。 言い換えれば, \((X,A)\) は, NDR対になる。
  • CW複体 \(X\) に対し, その cellular chain complex \(C_*(X)\) の定義。
  • CW複体 \(X\) の cellular chain complex のホモロジーと\(X\)の特異ホモロジーは一致する。

ホモロジーを取ると基本群の情報がかなり失われてしまうが, CW複体の場合, cellular chain complex の段階で考えると, 基本群の情報も扱うことができる。つまり, その普遍被覆の cellular chain complex を考え, それと基本群の作用を合わせて考えるのである。

  • CW複体の被覆空間は自然なCW複体の構造を持つ
  • CW複体 \(X\) について, \(\pi _1(X)\)-module としての \(C_*(\widetilde {X})\)

References

[Bjö95]

A. Björner. “Topological methods”. In: Handbook of combinatorics, Vol. 1, 2. Amsterdam: Elsevier, 1995, pp. 1819–1872.

[Dow52]

C. H. Dowker. “Topology of metric complexes”. In: Amer. J. Math. 74 (1952), pp. 555–577.

[DP03]

Alexandru Dimca and Stefan Papadima. “Hypersurface complements, Milnor fibers and higher homotopy groups of arrangments”. In: Ann. of Math. (2) 158.2 (2003), pp. 473–507. url: http://dx.doi.org/10.4007/annals.2003.158.473.

[FFG89]

A.T. Fomenko, D.B. Fuchs, and V.L. Gutenmacher. ホモトピー論. 東京: 共立出版株式会社, 1989.

[FP90]

Rudolf Fritsch and Renzo A. Piccinini. Cellular structures in topology. Vol. 19. Cambridge Studies in Advanced Mathematics. Cambridge University Press, Cambridge, 1990, pp. xii+326. isbn: 0-521-32784-9. url: http://dx.doi.org/10.1017/CBO9780511983948.

[Hat02]

Allen Hatcher. Algebraic topology. Cambridge: Cambridge University Press, 2002, pp. xii+544. isbn: 0-521-79160-X; 0-521-79540-0.

[Hir]

Philip S. Hirschhorn. Functorial CW-approximation. arXiv: 1508. 01944.

[Koz08]

Dmitry Kozlov. Combinatorial algebraic topology. Vol. 21. Algorithms and Computation in Mathematics. Berlin: Springer, 2008, pp. xx+389. isbn: 978-3-540-71961-8. url: https://doi.org/10.1007/978-3-540-71962-5.

[Liu78]

Ying Ming Liu. “A necessary and sufficient condition for the producibility of CW-complexes”. In: Acta Math. Sinica 21.2 (1978), pp. 171–175.

[LW69]

Albert T. Lundell and Stephen Weingram. Topology of CW-Complexes. New York: Van Nostrand Reinhold, 1969, pp. viii+216.

[May99]

J. P. May. A concise course in algebraic topology. Chicago Lectures in Mathematics. Chicago, IL: University of Chicago Press, 1999, pp. x+243. isbn: 0-226-51182-0.

[PS02]

Stefan Papadima and Alexander I. Suciu. “Higher homotopy groups of complements of complex hyperplane arrangements”. In: Adv. Math. 165.1 (2002), pp. 71–100. arXiv: math / 0002251. url: http://dx.doi.org/10.1006/aima.2001.2023.

[Ran02]

Richard Randell. “Morse theory, Milnor fibers and minimality of hyperplane arrangements”. In: Proc. Amer. Math. Soc. 130.9 (2002), 2737–2743 (electronic). arXiv: math / 0011101. url: http://dx.doi.org/10.1090/S0002-9939-02-06412-2.

[Spa81]

Edwin H. Spanier. Algebraic topology. Corrected reprint. New York: Springer-Verlag, 1981, pp. xvi+528. isbn: 0-387-90646-0.

[Tan82]

Yoshio Tanaka. “Products of CW-complexes”. In: Proc. Amer. Math. Soc. 86.3 (1982), pp. 503–507. url: http://dx.doi.org/10.2307/2044458.

[Whi78]

George W. Whitehead. Elements of homotopy theory. Vol. 61. Graduate Texts in Mathematics. New York: Springer-Verlag, 1978, p. xxi 744. isbn: 0-387-90336-4.

[小中菅67]

小松醇郎, 中岡稔, and 菅原正博. 位相幾何学 I. 東京: 岩波書店, 1967.