代数的トポロジーでは, (コ)ホモロジーや ホモトピー群などの, 群や環や加群に値を持つ「ホモトピー不変量」を駆使して空間を調べる。
「ホモトピー不変」の意味は文脈によって変わるが, もっとも素朴なものは, ある写像 \(f: X\to Y\) が別の写像 \(g: X\to Y\) に連続的に変形できるとき, \(f\) の誘導する写像と \(g\)
の誘導する写像が同じである, というものである。
このような連続写像の連続的変形を定式化したのが, ホモトピーである。
- 位相空間の間の2つの連続写像 \[ f, g : X \longrightarrow Y \] に対し \(f\) から \(g\) へのホモトピー (homotopy), および \(f\) と \(g\) がホモトピック
(homotopic) \(f\simeq g\) であることの定義
- 関係 \(\simeq \) が \(X\) から \(Y\) への連続写像全体の成す集合 \(\mathrm{Map}(X,Y)\) 上の同値関係であること
- \(X\) から \(Y\) への連続写像のホモトピー類の成す集合 \([X,Y]\) (ホモトピー集合)
- 2つの基点を保つ写像が, 基点を保って homotopic であること
- \(X\) から \(Y\) への基点を保つ連続写像の基点を保つホモトピー類の成す集 合 \([X,Y]_{*}\)
- 空間対, より一般に, \(n\)-ad の間の2つ写像のホモトピー, そしてホモトピー集合
雑誌「数理科学」にも書いた [玉19] が, 写像の連続的変形を最初に考えたのは, Brouwer [Bro11; Bro12] だったようである。
ただ, 位相空間の概念がまだ確立していない時代だったので, そこに至るのは容易ではなかったようである。 ホモトピーのアイデアのもとになった,
解析学などでの具体的な問題や定理については, Vanden Eynde の [Van92] に詳しく書かれている。
数理科学の記事では, \(H:X\times [0,1]\to Y\) という形の写像をホモトピーとして定義したのが Brouwer であると書いたが, それは間違いだったようである。直積空間は,
1926年に Tychonoff により定義されたものだからである。Brouwer の考えたのは \(f\) と \(g\) を繋ぐ写像の族 \(\{h_{t}\}_{0\le t\le 1}\) だった。
現在のホモトピーの定義は, 誰が最初に発見したのだろうか。
とにかく, ホモトピーの概念が確立するると, 空間の間の関係として, ホモトピー同値が定義できるようになる。数理科学の記事にも書いたが,
ホモトピー同値は, Hurewicz [Hur35] により定義されたものである。
正確には, simple homotopy は写像に関することではなく, 単体的複体やより一般の cell complex
の単体や胞体を潰したり膨らませたりすることにより得られる関 係であるが, simple homotopy 同値ならばホモトピー同値なので,
上に挙げた。
ホモトピーを使うと, ホモトピー群が定義できるが, それを用いてホモトピー同値より弱い, 弱ホモトピー同値の概念を定義することがきる。
ホモトピー群は当然であるが, ホモロジー群のように, 代数的トポロジーで用いられる不変量は, 弱ホモトピー同値で不変になっている。 そのため,
現在では, 「ホモトピー不変性」と言ったとき, 「弱ホモトピー同値不変性」を意味する場合も多い。
ホモトピー同値と関連した概念として以下のものがある。
Noncompact な空間を, 無限遠点でのふるまいも考慮して考える枠組みとして, proper homotopy theory
というものがある。
ホモトピーの変種としては, Cannon と Conner [CC00] の big homotopy もある。閉区間 \([0,1]\) を totally ordered
set で, そこに自然に定義される位相に関し compact で connected なものに取り替えて定義されるものである。Penrod の
[Pen] を見るとよい。
2つの空間がホモトピー同値がどうかを判定するために, \(X\) と \(Y\) の被覆 \begin{align*} \mathcal{U} & = \{U_{\alpha }\}_{\alpha \in A} \\ \mathcal{V} & = \{V_{\alpha }\}_{\alpha \in A} \end{align*}
が与えられ \[ f : X \longrightarrow Y \] が各 \(\alpha \in A\) に対しホモトピー同値 \[ f|_{U_{\alpha }} : U_{\alpha } \longrightarrow V_{\alpha } \] のとき, \(f\) 自体がホモトピー同値か, という問題が考えられる。 これについては, tom Dieck
が [Die71] で考察している。
特別な場合として, 被覆が増加列 \[ U_1\subset U_2 \subset \dots \subset \colim _{n} U_{n}=X \] で \(Y\) が1点のときがある。問題は, 各 \(U_{n}\) が可縮なら \(X\) も可縮になるか, であるが,
一般には正しくない。現在のホモトピー論では, このような問題は colimit が homotopy colimit で置き換えられるか,
という問題に帰着して考えるのが普通である。 位相空間論のみで, homotopy colimit を用いずに考えたものとして Ancel と
Roberts の [AE] がある。
References
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[AE]
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Fredric D. Ancel and Robert D. Edwards. Is a monotone union of
contractible open sets contractible? arXiv: 1606.05379.
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[Bro11]
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L. E. J. Brouwer. “Beweis der Invarianz
der Dimensionenzahl”. In: Math. Ann. 70.2 (1911), pp. 161–165. url:
https://doi.org/10.1007/BF01461154.
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[Bro12]
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Luitzen Egbertus Jan Brouwer. “Continuous one-one transformations
of surfaces in themselves (5th communication.)” In: Proc. of the
Section of Sciences, K. Nederlandse Akademie van Wetenschappen te
Amsterdam 15 (1912), pp. 352–360.
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[CC00]
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J. W. Cannon and G. R. Conner. “The big fundamental group, big
Hawaiian earrings, and the big free groups”. In: Topology Appl. 106.3
(2000), pp. 273–291. url:
http://dx.doi.org/10.1016/S0166-8641(99)00104-2.
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[Die71]
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Tammo tom Dieck. “Partitions of unity in homotopy theory”. In:
Compositio Math. 23 (1971), pp. 159–167.
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[Hur35]
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Witold Hurewicz. “Homotopie, Homologie und lokaler
Zusammenhang”. In: Fund. Math. 25.1 (1935), pp. 467–485.
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[Pen]
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Keith Penrod. Big fundamental groups: generalizing homotopy and big
homotopy. arXiv: 1410.3088.
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[Van92]
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Ria Vanden Eynde. “Historical evolution of the concept of homotopic
paths”. In: Arch. Hist. Exact Sci. 45.2 (1992), pp. 127–188. url:
https://doi.org/10.1007/BF00374251.
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[玉19]
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玉木大. “ホモトピーという考え方の広がり”. In: 数理科学 671 (2019), pp. 23–28.
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